「インデペンデンス・デイ」 富田英典


 昨年、米国で独立記念日の休暇を狙って公開されたSF映画「インデペンデンス・デイ」(二十世紀フォックス)は、スピルバーグ監督の「ジュラシック・パーク」(一九九三年)が樹立した九日間で興行収入一億ドルという記録を七日間で突破、十五日間で一億五千万ドルの記録も十二日間で達成し、その後、世界各国でも上映され記録的な大ヒットとなった。我が国でも、冬休みお正月映画として人気を集め、いまだにロングランを続けている。
 物語は、ニュー・メキシコにある米国の衛星アンテナが奇妙な音をキャッチするシーンから始まる。その発信源は、地球外の知的生物であった。やがて、月の四分の一もある巨大な宇宙船の群が地球に急接近し、世界中の大都市はその巨大な影に覆われてゆく。奇妙な音とは、軌道上の人工衛星を利用した一斉攻撃へのカウントダウンだったのだ。
 若き米国大統領ホイットモア(ビル・プルマン)は全米の主要都市に緊急避難命令を発令するが、時すでに遅く、巨大宇宙船から発射された光線は、ホワイトハウスを破壊し、ロサンゼルスやニューヨークも一瞬のうちに廃墟となった。都市での大パニックが激しくなる中、空軍基地から飛び立ったヒラー大尉(ウィル・スミス)らの戦闘機と巨大な宇宙船から発進した無数の飛行物体が壮絶な空中戦を展開する。しかし、宇宙船群はバリアでミサイルをことごとく跳ね返し、空軍の戦闘機は全滅する。ホイットモアは、核攻撃を決断した。しかし、発射された核ミサイルも見えないバリアによってはね返され、ヒューストンの街を廃墟と化すだけに終わるのだった。
 CATV会社の技師であるデイビッド(ジェフ・ゴールドブラム)は、宇宙船の母艦にコンピュータ・ウイルスを侵入させれば、バリアが弱まり、攻撃のチャンスがあることに気づく。そして、人類の運命をかけた一斉攻撃の幕が切って落とされたのだった。くしくも、その日は、米国の独立記念日であった。
 スケールの大きさ、特撮による破壊と戦闘シーンは、見る者をハラハラドキドキさせ、無条件に楽しませてくれる。ただ、核ミサイル攻撃の失敗は「核兵器さえ使用すれば、大きな代償を支払うことにはなるが戦争は終わる」という楽観論をみごとに打ち砕く。それは、科学技術に対する無条件の信頼への警告であるように思える。
 また、最新鋭の衛星通信網が逆に異星人に利用されるという設定や、人類よりはるかに進んだ科学技術を持つ異星人の軍事力もコンピュータ・ウイルスによって簡単に破壊されるという展開は、今日の高度情報化社会の危うさを警告しているように思える。そして、なによりも、寄生虫のように星から星へと渡り歩き、資源を利用しつくすと別の星に移動する異星人とは、実は私たち人類の姿にも思えてくる。映画を見終わった私は、複雑な気分になった。気軽に楽しめないのは、社会学者の悲しい性(さが)のためだけだろうか。

1997年3月21日  『メディア人間学』  京都新聞朝刊11面

とみた・ひでのり  

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