「トレーディングカード」 富田英典


 TVゲーム世代を中心にトレーディングカードと呼ばれる対戦型のカードゲームが流行している。例えば、任天堂の携帯ゲーム「ゲームボーイ」用ソフト「ポケットモンスター」(通称ポケモン)のカードゲームは、昨年一0月の発売以来、二二五万セットを販売しているという。その他、トレーディングカードには幾種類もあるが、一番人気があるのが「マジック・ザ・ギャザリング」(通称マジック)である。米国でブームになり、それが日本に波及し、昨年四月には日本語版も発売された。
 「マジック」は、魔法使いの決闘を再現したトレーディングカードゲームであり、対戦する二人が魔法使いになり、架空の生き物や魔法を使って相手を倒すというゲームである。お互いに最低四0枚のカードを持ち、そこから七枚のカードを引き、順番に残りのカードを一枚ずつ引きながら攻守を繰り返す。カードには、攻撃力と防御力が数字で表示されていて、対戦相手のライフ(生命点)二0をゼロにすれば勝ちとなる。
 ただ、これらのゲームは、カードを追加購入する必要がある。例えば、「ポケモン」のカードゲームには六八種類のモンスターカードがあるが、最初に購入するセット(六0枚、一三00円)には、二十数種類のモンスターしか入っていない。そこで、子供たちはより強いカードを求めて拡張パック(一0枚、二九一円)を買い続けることになる。「マジック」にいたっては、千種類を越えるカードがあると言われている。ゲームの勝敗は、より強いカードを購入するための資金力によって左右されることになる。
 「戦う前に勝負がついているようで面白くない」「昔の遊びの方が夢があった」と思う人もあるだろう。しかし、私たちが子供の頃に遊んだメンコやベーゴマもみんな同じではなかったか。それぞれが自分のメンコやベーゴマを持って対戦していたし、強いメンコやベーゴマを持っている子は、それだけで自慢だった。
 むしろ両者の違いは、トレーディングカードゲームがTVゲームをベースにしているところだ。そこには、物語があり、ルールや戦術もかなり複雑である。「マジック」のカードに添付されているルールブックは九0頁もある。まるでTVゲームの攻略本のようだ。ゲームセンターのゲーム機も対戦型が増え、インターネットを利用して対戦するネットワークゲームも次第に人気を集めつつある。そして、コンピュータ相手ではなく、人間同士がコンピュータ上で戦うバトルゲームのリアリティは、次第にコンピュータの外の世界まで浸食し始めている。その結果、子供たちの遊びの世界は、次第にコンピュータゲームをコピーしたものへと移り始めているのである。
 『少年ジャンプ』(集英社)で連載中の高橋和希の「遊戯王」にも登場し、日本語版は発売一0ヶ月で一億枚以上、全世界では二0億枚以上を売り上げ、世界大会も開催される「マジック・ザ・ギャザリング」。
 この流行は、現実の世界や物語の世界をシミュレートしたはずのメディアの世界、架空の世界が、逆に現実の世界を規定し始めた兆候なのかもしれない。

1997年7月4日  『メディア人間学』  京都新聞朝刊15面

とみた・ひでのり  

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