クトゥルフとクトゥルー
もしくは、ウィキペディアへのツッコミ


異世界の生物が人間の発声器官に基づく言語をもっているなどとは!
H・P・ラヴクラフト


 

最初に言っておきますが、クトゥルフが正しくて、クトゥルーが間違いだ。などと言うつもりは全くありません。元来、発音できないように創作されたモノを発音しようとしているのですから、どうとでも読めばいいわけです(とは言え、ク・リトルリトルはどうやって読んだのか…)。

2012年三月末の、ウィキペディアのクトゥルフ神話の項目には、「クトゥルフという表記が一般的」、「ラブクラフト正統派の方が多い」など書かれていますが、まず、誤りでしょう。

矢野健太郎のマンガ、魔夜峰夫のアスタロトシリーズ、風見潤のクトゥルーオペラ、学研からは、クトゥルー神話大全。そして何より、アンソロジー本である「暗黒神話体系 クトゥルー 」のシリーズにおいて、大瀧啓裕の訳でも、「Call of CTHULHU」は「クトゥルーの呼び声」と表記され、クトゥルーで統一しています。ラブクラフト全集ではクルウルウとクトゥルーで使い分けていたようですが、クトゥルーに統一したのは、その方が、一般認知度が高いからで、クトゥルフが最も 高い認知度を誇るなら、クトゥルフで統一していたでしょう。

さらに細かく見れば、双葉社版の魔獣戦線の巻末対談でも「クトゥルー神話」と表記されていますし、RPGマガジンのコラムで、たかしげ宙も「クトゥルー」と表記しています。加えて、これらの本は、旧神対旧支配者のダーレス案を採用しているモノがほとんどで、とてもじゃないが「正統派」の方が多いとは、言えるモノではない

おそらく、一番近年の作であろう「這いよれニャル子さん」でも、クトゥルー表記であった。内容には触れないが………(…転けてくれ…いあいあしゅぶにぐらす 我が望み聞き入れたまえ)
個人的な例を出せば、非テーブルトーカーも「クトゥルー」を使い、テーブルトーカーでも、非キーパーは「クトゥルー」と言うことが多かった。

対して、クトゥルフという表記は、宇野訳のクトゥルフの呼び声の他は、ホビージャパンないしアスペクトからでたテーブルトーク関連書籍のみ。あと若干のビデオゲーム(魔人学園とティラムバラムは確認済み。黒の断章とネクロノミコンはどうだったか…)。クトゥルフの方が一般的というならば、上記以上の数を、テーブルトーク関連意外で提示していただきたい。テーブルトーク関連書籍は、当然統一が図られているので、全部ひっくるめて1とすべきだろう。まぁ、別に出版社の数で 比べても良いが。

最低限度にとどめたとしても、少なくとも90年代まではクトゥルー表記が一般的であり、ダーレス設定の方がスタンダードだった。と言うのは、間違いないと思います。少なくとも、正統設定で書かれた日本の小説を私は知らない(知ってたら、もっと和製クトゥルフもの集めている)。

ついでに言うと、テーブルトークでの「クトゥルフ」の表記は、デザイナーのサンディ・ピーターセンに発音して貰ったテープを送ってもらい、そこから起こしたモノ。クトゥルフハンドブックやボックス版ルールの後書きで触れられている。クトゥル「フ」のフ音が無いならば、そう表記したはずで、宇野訳をそのまま流用したと言うのは、言い過ぎだろう。クトゥルフハンドブックでの発音指導では「kuh-THOOL-hoo」と長母音のようなので、便乗したことは間違いないと思うが。無理矢理表記するなら、クトゥルフゥかクトゥルフーで、ちょっと締まらない。

さらに追加すると、ラブクラフトの項目では、中国には敬意を払っていた。と言うことになっているが、中華街の描写は、まさにモンスターの描写そのままで、友人への手紙に記されている。『ピテカントロプスとアミーバのぞっとするねっとりとした混成物です』『奴らを眺めているとぼくは、脱疽の腐敗物を胸くその悪くなるまで詰め込まれ、今にも張り裂けてあふれ出し、その粘液状の汚物の濁流で全世界を飲みつくさんばかりの、ずらりと並んだ巨怪な樽の放列を連想します』…とても、中国へ敬意を持っていたとは思えませんが。ま、書籍上の中華帝国と、実際の中国人は別物ととらえていたのかも知れませんが。

正味、これだけでも十分論破できていると思うわけですが。さらに言えば、クトゥルフハンドブックの中にも「右に名前を挙げた作家のほとんどがラヴクラフトではなく、ダーレスの設定を踏襲している」とあります。 日本に限らず、世界的にダーレス設定の方がスタンダードなのかも知れません。

表記の問題は、日本語もアルファベットを使う言語だったら発生していないだろうし、日本語が表音能力の低い言語だったら、こうまで問題にならなかっただろうと思う。ちなみに、テーブルトークのタイトルは、フランス語でもドイツ語、スペイン、イタリア語でも、CTHULHUで表記されている(ブック版の巻末資料から)。逆に、プレイ中にどう発音してるか気になるところですが。

それにも増して、問題なのは、似非ファンの問題でしょうか。例えば、ビヤーキーとバイアクヘーでもめる例は私は知りません。さらには、ニャルラトホテプか、ナイアーラトテップか、ニャルラトテップか、ナイアルラトホテップか、でもめている例も知りません。意味のないこだわりを振りかざしている人の方が問題でしょう。おまえが一番こだわりを振りかざし取るわ!と突っ込まれる方も多数でしょうが、まぁ、その通りです。が、間違いは間違いなので。

私が分けて使っているのは、クトゥルーといった場合、小説などから入った人が多く、ダーレス設定をベースにしている事が多いから。と言う理由だけです。ダーレスの世界観では、クトゥルーで良いんじゃね?でもあります。

クトゥルフハンドブックにも書かれていますが「コケコッコー」でも「クックドゥドルドゥ」でも良いわけで、その国、その言語での呼び方があって良い。ク・リトルリトルでも良いんですよ。


私は、表記、表音にはこだわらないんですが、どうも名前だけ取ってきて、諸々の設定無視。と言う創作スタイルには納得できないモノで。故に、神話との連動が薄くなって、ただのモンスター扱いの近年の女神転生は好きになれない。

クトゥルフ神話も、創作のベース素材となれる共有性と知名度を持つに至ったと思えば、喜ぶべきなんでしょうけど…素材の風味を完全に消し飛ばした作品に、意味があるのか?と思うわけです。ロジャーコーマンのように、原作とはタイトルが同じだけ。みたいなのに納得できます?。
 


初稿2012/04/23 夢酔の方は4/20  改稿2012/04/28
 


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