コンピューターゲームとクトゥルフ

 


残念な事に、コンピューターゲームとクトゥルフの相性は、最悪。と言えます。
なぜならば、コンピューターゲームにおいて、神話生物のグラフィックを出さない事は、水着姿のないグラビア写真集の様な 、エロのないエロゲの様な、戦闘のないRPGの様なもので、画像が無ければ、ほとんどの人ががっかりするでしょう。

しかし、本来、神話生物、グレートオールドワンや外なる神を始め、人間には理解すら出来ない存在であり、それを正確に描写できる脳や感覚器官を持った人間は存在しないのです。だからこそ、形容詞の羅列で、かろうじて人間が理解出来る範囲で描写されている事が、恐怖感へと繋がる訳です。

それを絵にしてしまっては、どうしても、陳腐になってしまう。精密に描写できると言う事は、人間が理解し、解析できているという事で、コズミックホラーの根源的な部分を殺してしまっているからです。そして、絵にしてしまうと、それが唯一の答えになってしまい、幅が狭くなってしまいます。狂気に陥る寸前の人間が、なんとか表現できる言葉としての形容詞の羅列での表現から、その姿を想像する事こそが、恐怖の根源であったのですから。

現状、ディープワンなど、ただの半魚人になってしまっています。インスマスを覆う影での表現は、魚の頭と蛙のような身体を連想させる描写になっていますが、日本のゲームに登場すると、全身鱗に覆われていたりします。半魚人のイメージが先行した結果でしょう。

原作を抜粋してみましょう。

「奴らは全体的には灰色がかかった緑色だったが、腹部だけは白かった。皮膚は光ってツルツルした感じだったが、背骨の隆起している部分はウロコに覆われていた。全体的な形は何となく人間に似ていたが、頭部は魚だった。目が飛び出していて、決して瞬きをしない。首の左右にはパクパクと口を開けるエラがあり、手足の先には水かきが付いていた。移動する時の飛び跳ね方は不規則的だった。二本の後ろ足だけで飛び跳ねる事もあるし、四本足全てを使う事もある。」
HPラヴクラフト インズマスの影

この文を見る限り、灰色がかった緑色、二本足、四本足で飛び跳ねる等、蛙っぽさもありつつ、頭部は魚。足より手が長いという連想を私はします。改めて書き出してみると、ウロコは背骨の突起部位だけだったんですねぇ。



さて、安易な神話生物の映像化も、神話生物を特撮ヒーローモノの怪獣並に扱ってしまう人を増やす要因と言えるのではないでしょうか。ブームが去ってしまったのも、映像化によって陳腐になってしまったからと言う気がします。竜宮城の絵にも描けない美しさ。ではないですが、「絵にも出来ない恐ろしさ」をもっていたはずなのに。TRPGのクトゥルフの呼び声ルールブックでは「なんとか人間に理解出来るように擬人化した物です」と注が入っていたりしますが。

ネクロノミコンも同様で、名前は知っているけど、読んだ事のある人はいない。と言うからこその重みであったのに、あちこちに置かれているのを見ると、リン・カーターの解説付きペーパーバッグ版ではないかと思ってしまいます。また、ネクロノミコンに手垢がついたと感じ始めたのか、アルアジフと通ぶって使っているモノも多いですが、原本にまで手垢をつけるのは止めていただきたい物です。しかも、単なる魔道書扱いで。


そうした点を踏まえると、一番良いのは、サウンドノベルという形式なのでは無いかと思います。画像をキッチリと描く必要がなく、言葉によるねちっこい描写も出来ますし。ただ、そうすると、描写力やシナリオ能力という物がダイレクトに問われてしまいますから、難しいでしょうけども。純正設定、コズミックホラーなクトゥルフに物に挑戦する 真のHPL信者はいないモノでしょうかねぇ。

と言うか、新しい神性を作り出すぐらいの気概を持った人はいないモノか。




そんな訳で、クトゥルフ物のコンピューターゲームを列記してみました。

洋ゲーのは、PCスペック不足でプレイしておらず、そのうち消えてしまいました。どのみち、アローン・イン・ザ・ダークみたいなシステムで、私には向いてないと思ったのも一因です。ゲームそのもの出来不出来ではなく、神話設定をきちんと踏まえているかどうかを主眼においています。別にダーレス設定でも構わないです(分かっててダーレス設定を採用したならば何も言わないですよ)。

単なるモンスター扱いや、魔道書が出てくるレベルのモノは排除しています。と言うか、排除したらほとんど残らなかった…




良作

Sherlock Holmes: The Awakened - Remastered Edition

これは、私が知る唯一の「神話生物を登場させずに、神話世界を描き切った」作品。元テーマが「クトゥルフの呼び声(小説)」というのも、ポイントが高い(本気度を感じる)。ただ、ゲームとしては、古い海外AVGなんで、ポイント&クリック、アイテムの組み合わせ、パズル解きなどがあり、人は選ぶと思います。あと、日本語化mod必須なんで、そこそこpc知識が必要。 



ティラムバラム(ライトスタッフ)
ライトスタッフのクトゥルフ物。西部開拓時代とメキシコ(当然、マヤ文明)という、さすがライトスタッフという出来映え。カダスやドリームランドにも足を運ぶという、きちんとした神話作品です。これも作中で「クトゥルフ神話」と表記されており、純正派である事が伺えます。ただ、売り上げはイマイチだった模様。ブームになる前だったしなぁ。EGGで取り上げてくれないモノか。


ラプラスの魔(ハミングバード)
ゴーストハンターシリーズの起点となったゲームです。シモン・ド・ラプラスと神話を絡める辺りにセンスを感じます。話の絡めかたとしては、次第点の方にはいるのかも知れません。実は、ダーレス設定で描かれています。小説版では、もろに、ハスターにクトゥルフをぶつけると言った、矢野健太郎のクトゥルー漫画みたいなコトしてます。てゆーか、本当にダーレス設定だと、ツインテールにはグドンだ 。みたいな…ある種、怪獣モノとして人気が出たのかもなぁ…

ゲームとしても遊べるのも良い。クラシック級なので、あこぎな難解さがありますけど。EGGでプレイできます。


次第点

ネクロノミコン(レッドゾーン)
ゲームとしては、インスマスを覆う影の盗作寸前(一応、原作HPLとは記述してあるので、盗作にはならないカモだけど「インスマスを覆う影」のことは触れてない)で、翻案とは一切書いてなかったりします。他のレビューサイトでは絶賛されていたりしますが、原作読んだ事あれば、そんな事言えないと思うんですけどねぇ。ただまぁ、クトゥルフ物と言う事で見れば、名前を借りてるだけのものと比べれば雲泥の差があります。残念な事に、クトゥルーと表記しているか、クトゥルフと表記しているかは確認できませんでした。

卵料理(メーカー失念な上、タイトルもうろ覚え)
オムニバス、アンソロジーというか、短編集的なAVGが流行った頃の一本に、神話物がありました(このタイトルじゃなかったかも…)。出来は良くなかった物の、クトゥルフのテレパシーを受けたり、教団の手の物とのサスペンスとか、まぁ、神話物と呼べる事はやってました。 ゲームとしては凡作以下ですけど。


却下
個別名上げてしまうと色々と問題ありそうですけど、神話物とうたいながら、名前だけ借りてきたような設定の物は大抵ここに入ります。

ク・リトル・リトル(ラヴクラフトと<触手>クトーニアンって何ダヨそれ)。
デモンベイン(ハチュウ人類とか、鬼の代わりに神話生物持ち込んだだけ。ウルトラ怪獣でも可 。ただまぁ、ハイパーボリア的なパラレルとしては良いのかも)。
黒の断章シリーズ(このシリーズは、明確に神話物とうたっていたか記憶が曖昧です)。

ふとの思えば、この三作って、名作って呼ばれてる気がするなぁ…ク・リトル・リトルは知らんけど……黒の断章は神話作品たらんとして、もがいた痕跡は認めますが、自己設定に酔った同人作品がごとく、頭の中で?マークが飛び交います(私の頭が悪いだけかもしれませんが、設定に凝りすぎて自滅しているのは間違いない)。他の二作は、ハナから神話作品として作っていないか、全く理解していないか、のどちらか。特に、<触手:クトーニアン>の方は、提訴レベル。

まぁ、映画「セブン」で、傑作ホラーとか、感動したっていっちゃう人が居る世の中だしな…

遊びとしては上手く扱っているモノ

東京魔人学園剣風帖

アラン登場の話は、盲目のモノが出てきたりしますし、きちんと盲目のモノの特性も出してます。他にも深きモノども、鬼死老海とか出てきますが、あくまで遊びとして、単なるモンスターとして組み込んでいるだけなので、神話作品ではありません。盲目のモノを選択する辺りにも、今井監督のマニアぶりが見て取れますが…。

直接的には関係ないのですが、盲目のモノは、原語だとFlying Polypsなんですが、どういう発想で、盲目のモノという超訳が生まれたのか興味があります。確かに、空飛ぶ吹き出物や、浮遊する膿では締まらない気もしますが…いや「浮遊する膿」で良いんじゃ…

本当にモンスターとして借り入れただけのもの
挙げるときりがないのでスルー。
タチが悪いのは、ペルソナ2。ニャルラトホテプの元設定に頼りすぎ。表層理解すぎ。
 



戻る