SAN値と正気度と正気度チェック


 


 

巷に流布している誤用を正します。 本来ならば「アレ」が流行しているときに書くべきだったんですが、まさか、関連ライターまで混同しているとは予想外だったので。


・正気度とSAN値

まず最初に、SAN値がピンチになることはありません。

なぜならば、SAN値、正確には能力値SANは、POW*5で算出される「固定の能力値」だからです。ゲーム的には、精神分析で回復させられる正気度の上限のことです。 キャラクター作成時に算出したら、以降は一切変動しません。(ちなみに、第二版日本語BOX版では、SAN値は最大正気度 の事でした。精神分析で延々と回復させようとしたマンチキンでもいたんですかね?)

第五版のルールブックにおいて「能力値SANと、正気度、最大正気度の違い」を一章使って解説してあります。少なくとも、あの作者がルールを読んだことがないというのは間違いないです。半可通が、半端な知識で誤用という嘘を広めてくれやがりまして、無駄で無意味な仕事をありがとうだパペェ。って気分です。

とは言え、クトゥルフ関連で専門家と思われていた各種ライターも、そして、第二版の翻訳者もSAN値と正気度を混同しており、一概に、責め立てるわけには行けません。そこで、改めて解説しておきたいと思います(私は、アマチュアなのに)。


そもそも正気度とは「異常な事態に対しての精神の抵抗力」を表した数値です。残量が 少ないから、気が狂い始めている。多いから、正気だ、精神が安定している。と言うわけでは、絶対にありません。正気度の低い正常な精神の持ち主も、正気度の高い狂人もいます。

そういった意味で「SAN値がピンチ」というのは、二重に間違っています。

ゲーム的にいうならば、HP100あっても、風邪をひいている病人はいます。逆に、HP1で健康な人もいます。それと同様に、正気度が24の健常者もいれば、正気度77の狂人もいます。減ってきたから、ピンチ にという数値ではありません(危険に陥りやすくはありますが)。

そもそも、このゲームにおける狂気。というのは、よだれを垂らしながら、奇声を上げるような、分かりやすいものではありません。それらは、一時的な狂気、不定の狂気として設定されており、自己の精神を保護するための防護措置です。理解できない現状から、精神を遮断することで自分を守っているわけです。

目の前に、理解不能な存在がいる。だから、精神は、外部の知覚を遮断して、それをなかったことにしようとする訳です(緊張症や痴呆症が該当 。記憶喪失症というのも、記憶を消すことで、その存在をなかったことにしている)。

それらはまだ、精神の均衡を保とうとしているから、防御措置をとるわけで、奇声を発するのも、現実との折り合いをつけようとしている。と言えるでしょう。

正気度が0、すなわち永続的な狂気に陥った場合は、人としての倫理観を失い、邪神に人間の生贄をささげることに何の呵責も感じない人間になります(クトゥルフ神話関連の事象で陥った場合のみ)。分かりやすい狂人のように、意味不明なことを叫ぶわけではありません。理性的、合理的に、どうやったら、グレートオールドワンのパワーを授かれるかを探求するために、他者の被害など考慮しない、いわばサイコパスになるわけです(ダンウィッチの怪のウェイトリー老人がそうですね)。


正気度というものは、耐性や抵抗力を示すものです。病気への抵抗力のようなものでしょうか。抵抗力が低い人は、風邪が肺炎になり、命の危険にさらされるように、正気度の低い人間は、ちょっとした出来事で、我を失いやすくなる。反対に、抵抗力が高くても、風邪をひくことがあるように、正気度が高くても狂気に陥ることがあるわけです。

よく誤解されますが、正気度は心のヒットポイントではありません正気のバロメーターでもありません。繰り返しますが、少なくても健康な人もいれば、多くても病んでいる人がいる。そのことは、留意しておいてください。特に、正気度が少ないから、狂い始めている。というのは完全な間違いですので 忘れないでください(クトゥルフの呼び声を使用したビデオゲームは、たいていこの間違いを犯している 。まぁ、ビデオゲームとしては、そうするしかないんですけども)。

ルールブックの狂気の治療の例でも、探索者のハーヴェイ・ウォルターズ(第二版)やダットン・ディールハウス(第五版)は狂気の治療完了時には、入院時より正気度が減っています。


・正気度チェック
昔は、SANチェックと言ってました。今は、正気度ロールの方が多いのかな。

実はこれも難しいもので、びっくりドッキリしたかのチェックではありません。判定に成功すれば、平然としていられるわけではないのです。しかし「宇宙的恐怖にさらされて、それを理解したかの判定」でもありません。

ルールブックには「自然の現象でも失います」とあります。事実、目が覚めたら棺桶の中にいた。とか、すさまじい拷問を受けた。時の消失正気度が載っています。まぁ、すさまじい拷問とは、夜のゴーントにくすぐられることとか、ティンダロスの猟犬に舐められることなのかもしれませんが。

あくまで「精神の安定を揺さぶられる状況に陥った時に、それに耐えられるか」のチェックです。

つまり、お化け屋敷に入って、脅かし役が飛び出したときに、判定するものではありません。よくできた彫像だなぁと近づいてみたら、石膏で塗り固められた人間で、まだ生きており、眼球を動かして、憐れみを乞うような、恨めしいような目でこっち見た。時には、判定が必要となるでしょう。

神話生物やそれらが引き起こす事態は、そういう精神の安定を揺さぶるような、常識を否定するかのような出来事だから、チェックが必要なのであって、別にそれらの存在が、何かの波動をだして、私たちを蝕んでいるわけではありません。

ゆえに、ルール的には「見慣れる(クトゥルフコンパニオンでの追加)」、「恐ろしさに慣れる(第五版53ページ)」などがあり、神話生物の存在が私たちの精神を蝕むのならば、慣れることはないはずです。

ルールブックにある例としては「普通のネズミが一匹飛び出してきても恐ろしくはないが、口から泡を吹いたネズミの一群が飛びだして来たら、十分、恐ろしいことでしょう」とあります。

びっくりしたかの判定ではないからこそ、私は恐怖を演出するために、ホラー映画を見まくったわけです。驚きと恐怖の境界線は、まだ引けていませんけども。宇宙的恐怖に触れたから。というのは、ビヤーキーを十字架で追い払うぐらい安直すぎてがっかりです。



ここからは私個人の解釈となりますが、「精神の安定が揺さぶられる状況」というのは、恐怖に限らないと思います。

例えば、ルーク・スカイウォーカーが仇敵のダースベーダーから「I'm your father」と言われたときは、チェックして良いと思います。今まさに殺そうとしていた相手が、実は父親だった。十分に、精神の安定が揺さぶられる事態でしょう。可能性を信じるだけの、伏線が引いてあればですが(スターウォーズはどうでしたっけ…)

はっちゃけあやよさん4の大王のように、何の脈絡もなく「おまえは私の娘だ」と言うのはチェックは不要です。

真面目だけが取り柄のつまらない男と思っていた亭主が、若い女と腕を組んでラブホテルから出てくる現場を見た奥さんも正気度チェックしてよいと思います。旦那が女性問題を何度も起こしていたなら、チェックするほどではないでしょう。

パフォーマーで、生きている彫像をやる方がいますが、あれを本当に彫像と思って近寄ったら、動いて「ギャー」となった人は、SANチェックしてよいと思います。

どのくらい減らすかは、難しいですが、仇敵からの父親発言は0/1D3ぐらい。真面目な亭主の浮気現場は…錯乱する人もいそうなので、一時的な狂気に陥る可能性があるとして、1/1D6ぐらいかなぁ。 生きている彫像は1D2ぐらいですかね。上記の、石膏で塗り固められた人間は、1D6ぐらい行くべきだと思います。


ゲーム用の解説

正気度
大事なのは「精神のヒットポイントではない」ということ「正気と狂気のバロメーターでもない」という二点は忘れないでほしい。
少なくても正気の人もいるし、多くても狂っている人がいる。少ないから狂いかけているわけでも、多いから正気なわけでもない。

では何かというと、減っていく抵抗値(D&Dでいうところのセービングスロー)と考えるのが良い。

正気度を失うというのは、抵抗力が削られていく。という認識がわかりやすいか。健康な時に風邪のウィルスにさらされるのと、雨に打たれたあとで接触するのとでは、感染率が異なるようなもの。狂気という病気に、かかりやすくなっていく。という認識はどうだろうか。

実際に、同じ、死体を見るにしても、ただ発見したのと、正体不明の殺人鬼に追い回されて発見したのでは、意味合いも、受けるショックは異なるし、どちらの衝撃が大きいかは自明だろう。

削られる正気度は、精神の疲弊を示している。とも考えられる。緊張の糸が限界まで引っ張られているときには、風でドアが揺れるだけでも、切れてしまいかねない。それが、20%失うと不定の狂気に陥るという事だろう。

この認識をもって、喪失する正気度の指針を決め、どうやって追い立て、どこで糸を切るかを考えるべき。


喪失正気度の指標
大事なのは、一度のチェックで5ポイント失うと、一時的な狂気に陥るほどのショックを受けるということ。

つまり、1D4+1以上の喪失は、それに見合った衝撃かどうかを考慮する必要がある。

期待値で考えるならば、1D4は2.5なので、+1しても、3か4。一発で、一時的な狂気に陥るかも?という危機感を与えつつも、まぁ大丈夫だろうと思うはずです。1D6も期待値は3.5なので、実は1D4+1と同じ。1D6+1あたりから、期待値が3.5+1とダイス運の悪い人は、やっちゃう難易度になるかと思います。

1D10まで行くと、5.5なので、かなりの確率で、一時的な狂気をもたらすはず。陥らなかったら、探索者はラッキーと 感じるでしょう。さらに考えれば、3D6の期待値は11なので、POW10以下の作りたての探索者を一発で病院送りにする可能性がある喪失という事です。

ただし、正気度チェックに成功すると、喪失は0にされているものが多いので、実際に狂気に陥る探索者はさらに減ります。

なので「正気度チェックして…成功した?じゃあ、喪失はない」とか言うのではなく、「正気度チェックね、失敗したら1D6、成功すれば0」と言った方が、探索者に危機感を与えられると思います(キーパーの小技)。

成功したら「ちぇ、失敗だったら1D6の喪失だったのに」と憎まれ口をたたく、牧山方式もあります。推奨は牧山方式ですね。先に公言しておくと、その通り減らさないといけないので。

牧山方式なら、プレイヤーが失敗したら、1D6を1D4に加減するという事も出来ますので。まぁ、手加減しても、正気度チェック失敗する探索者は、最大値を出して、20%越すもんなんですが。3以下ならセーフ…4出すんかいってパターン(笑)。

まぁ、一時的狂気は、単なる錯乱なんで、単独行動でない限りは、そんなに構える必要はないんですが。ビンタして「落ち着け!」で、戻るレベルですし。ただ、平均的なPOWは11で、正気度は55。の20%となると、11の消失で不定の狂気。一時的狂気二回でやっちゃう数値というのは、認識しておくべきでしょう。


クトゥルフの呼び声における、正気度チェックは、ファンタジーゲームにおける戦闘シーンと考えてよい。ファンタジーの戦闘は、ざっくりで良いが、正気度チェックは、入念に設定する必要があり、なおかつ、シナリオのピークとリンクさせる必要があります。

まずプレイヤーを警戒させて、ここでプレイヤーを(シナリオ的に)混乱させて、ここで追い込んで、真相開示でピーク(一人二人、不定の狂気に落とす)。というのが(私の)理想ですが、なかなかうまくはいかないものです。
 



2019/01/28 正式上梓


 



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