日本神話とクトゥルフ

天地初めて發けし時、高天の原に成れる神の名は
−古事記


日本神話の神々を、クトゥルフの神々に当てはめることで、シナリオソースの刺激となればと思い書いてみました。手垢のついたネタのようですが、意外とやっている人は少ないようで。

なお、厳密に一対一で当てはめるつもりはありません。同じ神を召喚したとしても、その術者の印象で、大きく変わると思います。光球の集合体にも見えるくヨグソトースを見たとき、ある人は「八雷をまとったイザナミ」と言い、ある人は「タケミカヅチ」と呼んだとしても、なんら不思議はありません。とは言え、タケミカヅチとシュブニグラス等、まったく縁が無さそうな二柱を符合させるつもりはありません。

元々、古事記は各地の伝聞を集合したものですから、こうした逸話を集合したときに、矛盾が出てて叱るべきだと思います。また、古事記は作業工程、自然現象に神の名を与えている箇所も多々ありますので、無理に、一対一で当てはめようとする方が、無理があると思いますので。

膨大なページ数の中から、クトゥルフの情報だけを抽出すると言うのも、ゲーム中で、魔道書を解読する事と符合するかと(笑)。

よって、先にクトゥルフ神話の神を挙げて、日本神話の神を上げる場合と、先に日本神話の神を挙げてから、クトゥルフ神話の神を挙げる事もあります。二つの逸話が集合したタメ、どちらとも取れる。と言う風に善意解釈していただければ幸いです。


アザトース

盲目にして白痴(ってこの言葉差別用語じゃないですよね?)とされますが、知性がないと言うよりも、精神、魂がない。と言う言い方が正しいとされています。地球生態系で、樹木が生物に不可欠な酸素を産むように、宇宙の中心でただ存在してるだけながらも、宇宙にとって不可欠な存在とも言えます。

さらに突き詰めるならば、時間の概念が全く異なり、アザトースにとっての一分一秒は、人間にとっての一万年とかそう言うタイムスケールなのかも知れません。アザトースが数秒で判断を下したとしても、人間にとっては数万年経っているとしたら、白痴と思われても仕方ないでしょう。

もともと、思考形態や精神構造が違いすぎるので、人間から見て、知性がない。と言うだけの話かも知れません。高等すぎるがために、人間には知性がないと感じられるのかも知れません。

宇宙の卵の中身であるアザトースを想像させるのは、日本神話、特に古事記では、特に該当する神はいません。九鬼文書や竹内文書にまで手を広げれば、天之御中主神より古い、始源神らしき名(モトツワタラセとか)も見つけることが出来ますが、一般に認知されていないものを出すと混乱すると思いますので。

天之御中主神(あめのみなかぬし)は、古事記などでも、その素性には全く触れられていない神ですが、始源神と言うポジションは疑いようもなく、古事記にも、別天神には性別がないとされていることも合致します。

古事記に寄れば、天之御中主神と、同時期に高御産巣日神(タカミムスビ)、神産巣日神(カミムスビ)の三柱の神が誕生しています。一応の公式とされるクトゥルフ神話の系譜に寄れば、アザトースから、ニャルラトホテプ、闇、無名の霧の三体が誕生しているので、天之御中主神は、ニャルラトホテプとした方が、座りが良いかも知れません。

アザトースは、あくまで宇宙と言う細胞の、細胞核であり、宇宙そのものという認識でいた方が良いのかも知れません。


ニャルラトホテプ

アザトースの項で推察によって、ニャルラトホテプは、天之御中主神と言うことになります。しかし、高御産巣日神(タカミムスビ)、神産巣日神(カミムスビ)に、対句的な印象をうけ、座りが良いために、闇、無名の霧としました。

高木神が、アマテラスに神託を告げることを考えますと、ニャルラトテップが、アザトースの伝令として跋扈する事を連想します。高木神は、高御産巣日神の別名と古事記では書かれています。

天之御中主神つまり、天の中心には闇があり、神を産むのが無名の霧。神と人を結ぶニャルラトテップと言う解釈の方が、合致する感じを受けます。

しかしながら、ニャルラトホテプは、トリックスタートしての役割が非常に強く、また千の姿を持つと言う事からも、その姿ごとに異なる名前を与えられている可能性は高いです。

トリックスターと言う点を重視すれば、行く先々で争乱を巻き起こすスサノオを連想させ、災いをもたらすと言うことで、八十禍津日神、大禍津日神(私見を言えば、二柱ではなく、語頭の形容詞を変えただけと思います。八十つまり数多い災いと、大きな災い)と見ることもできます。

その反骨心をみるならば、天逆神と見ることも出来ましょう。天邪鬼は、人間の内側の肉を喰い、その人間になりすます事が出来ます。ニャルラトホテプもまた、人間に乗り移り操ることが出来ます。

まぁ、困ったときのニャルラトホテプで良いと思います。


アブホース

不浄の源とされ、自らの身体から、落とし子を作っては、それを捕らえて喰う(分裂した細胞を取り戻している?)と言う事を繰り返しています。名前からしても、万物の根元たるアザトースになり損ねた。と言うよりは、模してみたが、似てもにつかぬ存在になったと言う感じがします。

親の触手から逃げ切ったアブホースの落とし子が、地球の動物の根元である。と言う解釈も面白いかも知れません。また、古のモノによって、ショゴスのベースになったという解釈も不可能ではありません(ルールブックでは、ウボ・サスラの方をベースに、ショゴスを作ったとなってました。ウボサスラとアブホースは表裏と言うか、同じCAスミスの作ですから)。

日本神話に当てはめるとしたら、水蛭子(ヒルコ)とするのが妥当でしょうか。蛭の様に骨のない子だったとか、漂着した外国人の水死体とか、早産した未熟児であるとか(確かに嬰児は、蛙っぽく見えますが)、諸説あります。

スライム状であるアプホースに骨があるわけもなく、葦船に入れて流し、子供としては考えなかったと言う逸話からも地下世界に封印したと言う解釈もできます。


水蛭子神

元来、素性の知れぬ神で、奇形であるが故に、手ひどい扱いを受ける神は、各国に存在します。有名ドコでは、ギリシアのヘカトンケイルがあげられます。秀真伝(ホツマツタエ)では、アマテラスは男性神で、最初に流されたヒルコが女であったとされています。古史古伝まで持ち出すとややこしくなるので、記紀系の記述にとどめ、蛭子を考えていきます。

思いつくのは、上記アブホース、アブホースと表裏のような、ウボ・サスラ。そして、ニョグタでしょうか。しかし、どれもしっくりきません。沼矛でかき回した後、だったので、混沌とした生命のスープの様な存在を連想したので、アブホースにしました。また、流されたからには、失敗作であろう。と言う事で、ウボ・サスラは成功例と思いますので。

蛭子は未熟児で、手足が弱く流されたとあります。手足が弱いと言う事で、インスピレーションで感じたのは、ツァトゥグァです。流されたというのも、ツァトゥグァは、星々の流転を繰り返していますので符合しますが、ツァトゥグァは手足が弱いと言うよりは、胴体が大きすぎるのですが。


ディープワン(深きモノども)

もはや、有名となりましたが、ディープワンと言えば、やはり、アズミでしょう。安曇磯良を主神として崇めていると言うことから、磯良は、クトゥルフないしクトゥルフの落とし子であると見て良いでしょう。または、ダゴンとハイドラの様に、古老クラスの深きモノどもの事かも知れません。

また、深きモノども。と言うと海沿いに限定してしまいがちですが、特に淡水で生活できない。と言う設定は無いはずです。安曇も、砂金や砂鉄を求めて、川沿いに内陸に進出したのですから、信州の山奥の湖にディープワンのコミューンがあっても不思議ではありません。

若干、伝承と容姿が異なりますが、ディープワンを河童と見ることもできます。山中の湖に生息しているモノを山童と呼ぶとか。

また、イヒカは「尾を持つ魚人のようであった」と言う伝承から、ディープワンと見ることもできます。イヒカは、井光(井氷鹿とも)と当てられる事からも、井戸、つまり地下水に住まう淡水のディープワンとしても良いでしょう(個人的には、この時代の漢字には、音が優先され、漢字の持つ意味は重要でないと思いますが)。イヒカは、安曇の眷属とされていますしね。

海水に住まうディープワンを安曇、淡水に住むディープワンをイヒカと呼んだのかも知れません。


クトゥルフ

ディープワンの項の考察から、安曇磯良(磯羅とも)であると思って良いでしょう。しかし、イソラは伝承が少なく、実体が掴みにくい存在です(だからこそ、利用しやすいのですが)。

数少ない水棲体と言うことで、海神とするのも良いでしょう。大綿津見神だけでなく、イザナギが黄泉の国から戻って禊ぎをしたときに生まれた、底津綿津見、中津綿津見、上津綿津見の三神と見ることもできます。この三神は、安曇連の祖神と記述されています。

底津、つまり海底にいるワタツミ。がルルイエに眠る大いなるクトゥルフであり、中津、上津はダゴンとハイドラとするか、名前の知られていない中規模に成長したクトゥルフの落とし子かも知れません。あまり、言及されたこと無い、クトゥルフの娘クサイラかも知れません。そうなれば、宗像の三女神もクトゥルフの眷属として考えることが出来ます。


イヒカ

上記で、淡水のディープワンとしておりますが、他にも、ヴァルーシアのヘビ人間のおかげで、影は薄いですが、トカゲ人間(Lizard People:ラムレイ「大いなる帰還」)とする事もできます。いっそのこと、ヘビ人間としてしまっても良いかも知れません。

井光と言う字だけを見るならば、異次元の色彩とする事も不可能ではありませんが、日本神話とは、なんの脈絡もない設定となります。


ハスター

星から来るもの。と言うことで、まず連想したのが、天津甕星(アマツミクボシ)です。日本神話で、数少ない星の神であり、また反逆神でもあります。

安曇連と言うほど、安曇は権力に浸透していましたから(その割りに位が低いのは、容姿のせいかも)、安曇の神である、磯良、つまりクトゥルフと仲の悪いハスターが反逆神として、手ひどい扱いを受けているのも納得できるかと。

ただし、天津甕星は、詳細が語られていない神ですので、実像は掴みにくいです。


ビヤーキー

ハスターの使者でありながらも、人間に使役されることもあるビヤーキーは、人間にもっとも近しい神話生物と思われます。日本神話とはずれますが、天狗は当てはまるでしょう。天狗に異界に連れて行かれ、色々なことを伝聞した。と言うのも、セラエノへ連れて行かれたのかも知れません。

先代旧事本紀では、スサノオの溜まった息から、人身獣首の天狗神(あめのざこのかみ)と言う女神で、男の精をうけず、天逆気(あめのさかいき)を呑んで生んだのが、天魔雄命(あめのざこのみこと)としている。天魔雄命とする事も出来うるかと。


天狗

天狗と言うことで考えますと、まがいなりにも人型をしており、羽根があると言う点で上記ビヤーキー、ミ・ゴ。夜のゴーントなどが考えられます。

一貫性がないようにも見えますが、天狗の方にも、様々な種類があり、それぞれが別の種だと考えることが出来ます。下級の烏天狗などは、くちばしをもった外見ですが、コレは動物的な外見をもつ、ビヤーキーを連想させます。少々強引ですが、高鼻天狗は、ミ・ゴの頭部の突起の一つを、鼻と認識したとも考えられます。

また、仙童寅吉も、丸薬売りの老人が壺の中に張り込んで、宙へ飛び去るのを見たことがきっかけで、天狗の世界に出入りすることになりました。また、中国でも、壺の中が仙界につながっている逸話があります。コレなどは、ミ・ゴの使う、脳だけを入れる特殊な容器を連想させます。

また、天狗は、星と関連していることが多く、竜とも対立します。これは、ガルーダとナーガの逸話の流入ではありますが、ハスターとクトゥルフの対立と置き換えることが出来ます。

甲子夜話では、そこでは、楽器を奏して踊ったり、参詣人の願い事を叶えるかどうか協議していたとあります。楽器と踊りと言えば、アザトースのいる空間を思い浮かべます。人間や他の神話生物の祈祷から、どれを叶えるか、ニャルラトホテプと相談している。そんな風に解釈することもできます。


グール

地下に住まう彼らを連想させるのは、イザナギの冥府下りで登場する、黄泉軍と黄泉醜女でしょうか。

イザナギの冥府下りの逸話も、イザナミが黄泉の国の食べ物を食べしまったので、地上には戻れない。と言うところも、グールの世界で長く暮らしてしまったため、身体がグール化してしまった。と言う解釈もできます。

神話学的なグールの誕生地であるアラビアでは、女性のグールは、グーラーと呼び、グールと違ってその容姿は美しく、人間の男と結婚して、子供を作ることもあるそうです。そのため、イザナミは、グーラーであり、何らかの事情で地下世界に戻った。と言う考え方もできます。

クトゥルフでのグールも、男女ともにいるはずですし、べつにアンデッドではなく、変異した人間ですので、子をなす事もできます。じぶんたちの子と人間の子を取り替えるのが、いわゆるチェンジリングと言う設定になってます。

そもそもにおいて、姿が変容したのは、地下に住むようになってから。と言う設定を付与すれば、そのまま史実とリンクできそうです。


根の国と黄泉の国

根の国と黄泉の国は、ともに、あの世。つまり死者の国と考えられ、一般的には、同じ場所を指すのではとされていますが、スサノオは根の国の支配者でありながら、「黄泉の国へ行きたい」と駄々をこねます。そう考えると、根の国と黄泉の国は、別世界と考えた方が良いでしょう。

根の国と言う言葉から、連想されるのは地下世界。クトゥルフで地下世界と言えば、クン・ヤンを始め、様々な場所がありますが、国と呼べるのは、やはり、科学的には発達していたが堕落していたクン・ヤン。もしくは、古のモノの住む、地下都市でしょう。

対して、黄泉の国とは、夢幻郷カダスが適当でしょうか。カダスへの階段や炎の洞窟は、黄泉比良坂を思い起こします。が、冥府下りで使用した黄泉比良坂は、正規ルートではなく、直接ドリームランドとつながっているグールの抜け道の一つ、と考えた方が良いでしょう。


イザナミ

イザナミは日本神話における母神です。その為、含んでいる要素が多岐に渡るため、これと批准できるものがありません。国生みと冥府下りを両方やる女神はあまりいません。

国生みと言う点でみれば、クトゥルフ神話では、女神は驚くほど数が少ないため、シュブニグラスしかあげられません。しかし、双方の神話を見ても、この二柱に、あまり符合する点はありません。

冥府下りに限定するのならば、イブ・スティトルがピッタリです。その容姿は、黄泉の国で、イザナギが垣間見た腐乱した状態のようです。さらに有り難いことに、イブ・スティトルは、ドリームランドの住人で、夜のゴーントの母でもあるようです。

イブ・スティトルは、大いなるものであったが、何らの原因(火神抹殺神話を解題する必要がありますが)で現在の姿になった。と言う物語を作ることもできるでしょう。コレならば、イザナギも大いなるものの一員とする事が出来ます。大いなるものは、ドリームランドにいる、いわゆる神と呼ばれるモノたちです。

火神抹殺の一考
アブホース、ウボサスラは地下に封じたモノの、多数の落とし子が地上残っており。それを一掃するの為に、クトゥグァを召喚して焼き払う計画を立てた。召喚そのものには成功したが、微妙な誤差が生じ、術者もクトゥグァの火に焼かれてしまった。焼けただれた我が身を恥じて、イブ・スティトルと名を変えて、ドリームランドへ隠れ住んだ。



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