導入部


イントロダクション(開始の状況とPCたちの持っている情報)。を示しています。キーパーが読み聞かせても良いですし、数部をプリントアウトして、探索者たちに与えても構いません。


加古(かこ)町、大浦(おおうら)。どこにでもある古くからある住宅地。最近のもっぱらの話題は、臭いである。水門を備えた調整池には、高度経済成長時代という巨人の糞便とも言えるヘドロが堆積し、梅雨時から夏場にかけて、独特の臭気を発していた。

外の者は、ヘドロ臭いと言うが、土地の者にとっては、夏の前触れとも言える、一風変わったノスタルジィを喚起する程度の臭いであった。

雨がしばらく降らなければ、池の水は干上がり、逃げ場をなくした魚たちが、干上がったヘドロの上で腐敗し、臭気を強烈なものに変える。だが、それも二、三日もの。

毎年少しずつ臭気が強くなっていることは気に病んでいたが、今年は特別だった。
梅雨時を迎える前に、この臭気は発生し、いまなお濃度を高めつつある。

排水路は言うに及ばす、水道水ですら小首を傾げてしまう。
もはや臭気は、臭気といえず、鼻の粘膜も、痛みとしか知覚しない。完全に腐りきって、液化した納豆をドレッシングにした、生ゴミサラダの方が、まだ食欲が出そうなくらいだ。

同じ町内の、まことしやかに流言を語る婦人によれば、怪しいのは住友家であるという。ただし、住友宅は、調整池の真横にある。決定的な証拠は誰も持っていない。二ヶ月前の保健所の調査でも、それは否定された。

何らかの答えを、スケープゴートを求める人々は、おとなしく人付き合いの悪い家庭に無言の圧力をかけ続けている。当の住友家は、雨戸をすべて閉め切り、ここ二ヶ月は一度も外出したところを見た人間はいない。


住友(すみとも)家に関する共通情報。

住友洋一(よういち)と芳子(よしこ)の夫婦。洋一の両親は、事故で亡くなっている。
子供はなく、夫婦二人だけ。

夫婦共々、特に目立った存在ではない。人並みに近所付き合いをしていたが、何年か前を境に、極端に人付き合いが減り、外出も減っていった。ここ二ヶ月は、まともに姿を見たこともない。が、きちんと生活だけはしている様なので、警察沙汰にはなっていない。



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