貨物搬入用の大型エレベーターにバレストラ大尉のRGM−79(G)、GLORIAと、アレード少佐とステラ少尉のRGM−79GY、BETYがゆっくりと乗り込んでいく。大型エレベーターと言えど、MSでは二機が限界だ。しかも、扉を開けた瞬間から戦闘が始まる危険性もある。ゆとりを持たせる必要がある。
数時間にも感じられる時間を経て、エレベーターが開く。言い合わせたわけではないが、ローガーはセンサーをフル動員し、俺もカメラの倍率を上げる。
「無人でありますように…残骸がありませんように…」
ローガーの祈りが通じたのか、エレベーターは無人だった。通信での報告が無かったのは、ミノフスキー粒子が散布されているのだろうか。通信状況が良くないのかも知れない。
ホーソン中尉のRGM−79(G)ケイと幾ばくかの補給物資を連れて、エレベーターに乗り込む。補給物資が搬入されるところから、本当にエレベーターを使うと敵前逃亡にするつもりらしい。
「品物に欠品は無いようだ、配達に行こうぜ」
ローガーの言葉と同時に、エレベーターの扉が閉じていく。とたんに身体が震え始める。いつものことだ。戦闘の開始前は、ウサギみたいに震える。新兵の頃から変わらないクセ。戦闘が怖くない兵士なんていない。居たとすれば、タダのバカか、サイコ野郎だ。
エレベーターが停止すると同時に、震えが止まる。齧歯類の歯は意外と鋭いし、蹴りだって大した破壊力だ。ウサギの実力見せてやる。
扉が開くと、ベティとグロリアが警戒態勢を取っている。ホーソン中尉のケイも警戒に加わり、俺たちはベティと交代してセンサーをフル稼働させる。ベティは、補給物資から通信機の設定を始めた。
「アルファ通信中継器、設置完了しました。ブラボー、チャーリーとも設定完了を確認。感度良好です。」
ベティとドロシィのセンサーを最大にする。ミノフスキー粒子の影響はほとんどない。この分厚い対核の隔壁が、外部との通信を阻害していただけのようだ。それとも、元々外部との通信を遮断する必要がある施設なのかも知れないかったが、この施設の素性を俺たちが知る必要はない。
まずは、入ってすぐの保安要員室を制圧する手はずだったが、制圧する必要はなかった。部屋の中は、保安要員たちのミンチが詰め込まれているだけだ。対人火器ではなく、直接、大砲でも打ち込んだらしい。
検問をかねた通路奥の保安要員室も似たような状況だろう。モニターの倍率を上げて、何とか視認を試みる。原型をとどめない扉らしき残骸を視認し、報告する。ベティは、すでに探査針(プローブ)を動力区画へ通じる通路へ打ち込んでいる。
「金属反応、61式…いえ、グロックが6機待ち伏せ(アンブッシュ)中。」
ベティからの報告と同時に、ドロシィにハンドグレネードを通路に放り込ませる。やや遅れて、ベティも続く。転がっていくグレネードは、タイミングと距離がずらしてある。程良い誤差で爆発が二度起こり、爆風が通り過ぎると同時に、軽快なRGM−79(G)ケイとグロリアが飛び出し、通路へ向けて、90oマシンガンをたたき込む。完璧なコンビネーション。
グレネードで破壊されたとおぼしき61式戦車…いや、グロックが、3機。9pの穴が開いた戦車が3機。他に戦力とおぼしきモノは存在しない。
「熱源も、まとまった金属反応もない。動力炉を守るのに、これだけの兵力しか割いていないのか?」
「バイオドール…戦術訓練は受けてないようだな」
「まぁ、奴らは兵隊で士官じゃない。それに予備電源があちこちにあって、三日は保つようだ。」
俺とカイムの会話に、バレストラ大尉が割り込んでくる。接触通信だ。
「お前たちのうち、どちらかが、開閉装置を操作しろとさ。ラーナによると、受信機が壊れてて遠隔操作出来ないんだそうだ。」
カイムは無言でコイントス。だが、結果を見せずにハッチを開けた。
「帰ったらおごって貰うからな。お使いは俺が行って来るよ」
カイムは第六機甲師団の随伴歩兵からの転属。トラップなんかの知識も一番詳しい。
「お、どうやらトラップを解除したようだな」
作業を追えたカイムをモニターで監視していると、グロリアから通信が入る。だが何かが、おかしい。音声にはノイズが混じっているし、光線の差込方がおかしい。グロリアを見る。コクピットハッチを全開にしてやがる。
「グロリア、いったいナニをしている?。」
「エアコンの調子が悪くてな、ノーマルスーツを着てくれば良かっ……」
語尾は聞き取れなかった。モニターをグロリアの方に向けていた為、詳しくは分からない。モニターの端にゆっくりと扉が開いていくのは見えた。だが、次の瞬間、モニターは爆風で覆われていた。
ベティが半開きの隔壁から、動力区画内に、敵が居ないかを確認し、俺は通路側へプローブを打ち込んだ。ケイも通路側へ銃口を向けつつ、どちらにも対応できる姿勢を取っている。
「総員点呼…グロリアはどうした。」
コクピットをのぞき込む必要もない。通信用のモニターに、爆風で飛び散った何かの破片が、深々と突き刺さったバレストラ大尉の顔が移っている。ベティに報告すると返事は舌打ちだけだった。
「ベティより、ブラボー、チャーリーへ。グロリアのパイロット死亡を確認。グロリアの識別ビーコン停止。ドロシィ1の死亡確認。パイロット登録を抹消。同乗者生存のためドロシィは任務続行可能。作戦を継続する。」
「ジュンより、アルファ、チャーリーへ。エミリィ大破、戦線を離脱させる。エミリィの識別ビーコン停止。エミリィ1、エミリィ2の死亡を確認。登録を抹消されたし」
最悪の通信の返事も、また最悪だった。すでに4名が死んだ。この警戒の薄さは、我々の油断を誘うためのモノだったのか?。ラーナの分析を淡々と聞く。カイムが居ないだけなのに、ドロシィの体重は、ずいぶんと軽くなってしまった気がする。
悲しんでいる暇が無いことだけが、救いだった。仕事がある。任務がある。相棒の死は、忘れはしない。だが、思い出すこともない。軍人とは、そんなものだ。退役したら、ゆっくりと思い出すさ。
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