モーゼルM1932の誤記


一般的には、モーゼル・ミリタリー・ピストルの名で知られているこの大型拳銃は、当初M1896ブルームハンドルの名で、発売されました。1896年にピストルの正式採用をも視野に入れて、モーゼル社が発表した拳銃の1932年モデルです。M712とも言われますが、M712というのは、アメリカの代理店ストーガー社が付けた形式名です。 ミリタリーの名を冠していますが、正式採用した国は一つもなく、民間販売がメインでした。第一次世界大戦あたりでは、将校などが使用する拳銃は自費購入とする軍が多く、そもそも、拳銃は護身用であって、一般将兵に配給する必要は無かったという理由もあります。

このM1932ですが、フルオート機構を有しており、前のモデルM1931での欠陥を改修したものです。M1931はフルオート射撃中に、セレクターが振動で動いてしまうという欠陥があったのです。M1932は、このセレクターを改良し、フルオート射撃による弾薬消費に対応するため、マガジンは脱着式となり、10発のショートマガジン、20発のロングマガジンが選択できるようになりました。また、以前のモデルと同様にクリップによる装填も可能でした。

芸術的とも言える独特のスタイルで、オプションと言うよりは、必須アイテムとして、ホルスターを兼用するウッドストックが有名です。なお、フルオート射撃時にウッドストックなしでは、発射もままなりませんし、命中弾を得るのも不可能でしょう。フルオート化の元々の狙いが、このウッドストックを着用することでの、オートマチックカービンとして使用することが狙いだったのですから。グリップエンドに、ストラップ取り付け金具が最初から付いていることからも、そのことは明白です。ちなみに、カービン銃とは、騎兵銃と訳されるとおり、馬上で取りまわし安いように、銃全体を短くした銃のことです。のちに、その小型ぶりから、空挺部隊が愛用することになるのですが。

このM1932が登場する作品は、映画「リーサルウェポン2」で、悪役のボスが使っていましたし、他でも、金満の悪役が使用することが多く、この独特のフォルムは、悪役向きの銃なのでしょうか。アニメのマイアミガンズでは、主人公の一人が愛用してしたし、コミックの「パイナップルアーミー(小学館)」では、夫の形見として、老婦人が使用する話があります。六巻だったかな。 ただまぁ、フルオート射撃シーンも、装弾シーンもないので、M1896系かもしれませんが。


◆なぜか、テーブルトークに登場すると、M1932の名称でありながら、クリップ装填のみとするルールがほとんどです。やたら武器に詳しいクトゥルフの呼び声のシナリオ集、黄昏の天使でも、再装填は2ラウンドになっています。

で、本題の真・女神転生の誕生編、覚醒編に書かれている「ヒトラーがサブマシンガンの開発に難色をしめし、マシンピストルと偽って開発した」云々は全くの誤記と言 えます。というよりも、どうやったら、そう言う解釈が出来るのか、不思議でたまらない。というレベルです。

そもそも、マシンピストルとは、本来サブマシンガンを意味しており、いわば俗称であったサブマシンガンの方が定着し、マシンピストルは、小型のSMGとフルオート機構を持つ拳銃などを示すようになったモノです。このことを踏まえても「マシンピストルと偽って」と言う記述が全くの誤記であることを証明しています。偽るもナニもなく、同じモノなのですから。

実際に、第二次大戦で有名なドイツ軍のサブマシンガンMP40。このMPは、マシーネンピストーレの略。マシーネンピストーレを英語読みすると、マシンピストルであり、現代でも、ドイツでは、サブマシンガンとは言わず、マシーネンピストーレと言うようです。その証拠に、銃器メーカーH&Kの代表的なサブマシンガンは、MP5。マシーネンピストーレ5です。

20世紀の悪役に仕立て上げられたボヘミアの伍長ことアドルフ・ヒトラーですが、何故か「サブマシンガンを毛嫌いしていた。」と言う記述を所々で見かけます。しかし世界中の軍隊が、拒絶していた戦車に目を付け、部隊を機甲化し、航空戦力を整えたりと、兵器にはこだわらないヒトラーが、何故サブマシンガンだけを嫌っていたのかは不明です。実際に、ワルサーやシュマイザーがサブマシンガンを生産、正規採用されているので、もしかすると、後付けされた悪意ある伝説かもしれません。

このヒトラーが開発に難色を示した。と言う経緯は、アサルトライフルの始祖であるStG44の事のようです。かみ砕いて説明すると、銃弾の種類が煩雑になりつつあり、前線での混乱を招くおそれがある。として、新型弾丸を使用するアサルトライフルの開発中止をヒトラーが命じたモノの、MP43、MP44として開発を続けており、実銃をみたヒトラーが、その有用性を認め、MP、マシーネンピストーレではなく、ツュツルムゲヴァナー、突撃銃と命名し、正式採用した。というのが概略です。

どういう誤解の仕方をしたのか分かりませんが、この開発経緯をM1932の開発経緯と混同しているようです。

何より、ヒトラーが政権を取得し、内閣を作ったのは、1933年の事です。1930年には、NSDAP(国家社会主義ドイツ労働者党:いわゆるナチス)は、第一党とも言える議会の過半数を獲得はしていましたが、軍備に、しかも民間企業の開発計画に注文をつける権力は、まだありませんし、また、そんなヒマも無かったはずです。M1932の名が示すとおり、発売は1932年ですから。

銃器に詳しくない。とはいっても、歴史的な経緯から見ても、おかしいと気がつくはずで、特に、もう誕生編発売の頃で、大御所といわれるぐらいの人でしたから、きちんと監修、監督はして欲しかったですね。しかも、誕生編のテキストを、そのまま流用しているのですから、監督不行届は二連続で、申し開きできるレベルではありません。


さて、ついでに語らせて貰うと、

ブルームハンドルは、1920年代には、モーゼル社からライセンス生産していた、アストラ社がフルオートモデルをを発売しており、市場を確認したモーゼル社が追従して、フルオートモデルを開発する形になっています。

「モーゼル・ミリタリー」と言う商標が、混乱を招いているようですが、一度もドイツ軍に正式採用されたことはありません。基本的に、民間向け、海外向け発売の銃です。他国へライセンス生産を許可していたり、マイナーチェンジを繰り返しているために、亜種が多く、1912年の段階で、7.63o(30モーゼル弾)タイプ、9oパラベラムタイプ、45ACPタイプが存在していました。

さらに、このブルームハンドルには、モーゼル社が正式な型式番号を与えなかったため、現在見られる型番は、後生のコレクターや研究者がつけたり、販売代理店がつけたモノで、同じモノを違う呼び方をしていたりして、少々混乱をもたらすモノになっています。

一番、ポピュラーであろうC96という形式は、実は民間販売用の形式で、軍にはM96として販売していました。そして、この形式で販売していると、初期型の1986年モデルから、1930年のユニバーサルセーフティを備えたモノまで、一括してしまうため、細かなマイナーチェンジに対応するため、多くの研究者は、「M+発売年数」で表しています。

◆ドイツ軍でのM1932の扱いですが、ドイツ空軍が1940年に7800挺のM1932を購入しています。オートバイ伝令兵のサイドアーム(予備武装)としてであったり、サブマシンガン不足の補うために、武装SSとかが補助兵器として使用したそうです。(参考文献:コンバットマガジン91年6月号) 。あくまで、MP40の不足を補うためにやむなく、と言うのが実情のようで、補助兵器の域を出る事はありませんでした。

主な購入先は、ドイツ空軍であり、何らかの原因で、所持していたライフルを紛失した場合に備えて、一部の空挺部隊がサイドアームにしていた。と言う話も聞きます。第二次大戦中の ドイツ空挺部隊は、拳銃と手榴弾のみを携行して、降下。ライフルやその他の物資は、コンテナに詰めて投下するのが、常でした。そのため、コンテナが遠くに流されたりして、回収できない。と言う事態は、ままあったようです。そんな時の気休めとして、カービンとしても使えなくもない、M1932を携行していた。と言う説です。

◆なんにしても、拳銃としては巨大すぎで、サブマシンガンとしては命中率(グルーピングが劣悪)が極端に悪く、カービン銃としては、射程が短い。と言う、器用貧乏を絵に描いた銃で、まさに帯に短し、たすきに長しと言ったところでしょうか。また、機構が複雑なため、生産に手間がかかり、1896年に設計されたままの基本設計では古すぎた。と言う点が災いしたようです。

また、30モーゼル弾(7.63o弾)は、高威力だが初速が高いために、銃身が加熱しやすくフルオート射撃をすると銃の寿命が極端に短くなったようです。M1932をご覧になった方は、ご理解いただけるでしょうが、いかにも熱で曲がりやすい銃身をしているでしょう?。

ネットサーフィンの折、M713は、M712の軍への販売用型番であり、主な売り先はドイツ軍であった。と記述しているwiki(マンガやアニメに出てくる銃器のデータベースとしているwikiでした)をみました。これも手ひどい間違いと言えるでしょう。そもそも、本国内に製造会社が存在しているのに、わざわざ、外国の代理店から、しかも、当時敵国であったアメリカの代理店から購入するわけがありません。

現に40年にドイツ軍が購入した7800挺のうちの1つを上記コンバットマガジンで紹介しており、その時の証明書というか、説明書には、マウザーシュネルホイヤーと書かれいるだけで、型番はどこにも記載されていません。

当然、修正しようとしていたのですが、ロックがかかってて、コメントすら残せない状況でした。中規模程度のwikiでは、こうした信じられないレベルの勘違いが平気で載せてあったりするので、ソコだけ見て納得せず、他にも、2つ3つ見て回って、整合性を取るのをお勧めいたします。

ちなみに、M713は、ライエンホイヤー。M1931の事で、どーにも、ストーガー社が、短期に製造が終了した事を逆手にとって、コレクターアイテムとして販売した時につけた形式の模様。M1931ライエンホイヤーは、フルオート射撃時に、振動でセレクターが動いて、勝手に切り替わるという欠陥品で、ごく短期で製造が終了しています。


◆多くの蘊蓄たれが舌を巻いた用語解説が異常に詳しく正確なPCゲーム「エリュシオン」でも、数少ない誤記の元となってます。上記の通り、軍に正式採用されていないので、聖遺物を潰して作る貴重な弾丸を、30モーゼル弾にするわけがありません。

拳銃弾にするならば、ワルサーやルガーが使用していた9oパラベラムにするでしょう。そもそも、ミリタリーモーゼルは7.63oの30モーゼル弾を使用するのです。7.62o口径のトカレフでは発射できません。そもそも、モーゼルのマガジンは、二列装填。トカレフのマガジンに入るかどうかさえ、疑問です。

 訂正:トカレフの開発経緯によると、高威力であった30モーゼル弾を発射する拳銃というのが開発コンセプトにあったらしく、また、ウィキペディアによれば、ブルームハンドルの製造が終わると、30モーゼル弾は、もっぱらトカレフ用に製造された。と言う記述があり、30モーゼル弾をトカレフで撃つのは問題無さそうです。 ちなみに、モーゼル弾というと7.63。トカレフ弾というと7.62と表記される事が多く、同一弾でありながら、誤差がある理由は不明。

また、ゲーム中では、トカレフの知名度はかなり低いので、ボディアーマーすら貫通する威力は、知られていない。とされるのですが、トカレフを思ったところに命中させる技術があれば、他の銃なら、頭部やなんかの無防備なところを狙えると思います。トカレフを実射した人のレポートなんかを見ても「トカレフは命中するするように作られていない」と酷評を受けていますし。

 補記:このトカレフの貫通力は、弾が貫通弾であったがための模様。諸事情で貫通弾のほうが流通量が多く、トカレフ=貫通力というイメージが定着した模様です。


◆本題に戻って「真・女神転生TRPG覚醒編」では、M1932の説明として「モーゼル・ルガーのフルオートモデル」と記述されています。が、モーゼル・ルガーとは、なにを指しているのか、まったく不明です。マシンガンの項目のM1932の解説「モーゼル・ルガーのフルオートモデル」と言う記述から考えると、M1932のセミオートモデルが、覚醒編でのモーゼルルガー。と考えることもできます。

とすると、フルオート機構を持つ以前のモデル。M1930より、前のモデルになります。ただし、モーゼルミリタリーのコピー生産をしていたアストラ社やアズール社は、20年代にはフルオートモデルを発売しているので、あくまで純正品に限る。と言うことになります。

そもそも、モーゼル社とルガー社は、まったくの別ものだと思うのですが…詳しい方、ご教授下さい。
(※ルガーという会社は存在せず、DEW社が発売したP−08をアメリカでセールスしたのがルガーと言う人物だったため、P−08は、ルガーの名で広まったと、ご教授いただきました。)

所詮ゲームのマテリアルで、細かいことは、どうでも良いことなのですし、特に覚醒編では、戦闘オプションは極力削られているので、意味のないことです。ともあれ、モーゼルは誤記、誤解が多いので、書いてみました。個人的に一番好きな銃ですしね。


◆モーゼル・ルガーについてご教授をいただきました。

第一次大戦中に作られた「P−08」を、モーゼルのバナーが付いているため、モーゼル・ルガーと呼ぶそうです。

1970年代に、モーゼル社によってリメイクされた、P−08。本来ならば、ルガーP−08と呼びたいところ、パテントの関係で、モーゼルパラベラムの名で発売。マニアの間では、モーゼル・ルガーで通用するとか。

P−08はDWE社が開発したもので、アメリカでセールスした人の名前がルガーだったので、ルガーと言う俗称が付いて、広まったそうです。

各国、各社でOEM生産されており、バリエーションは多彩で、その中でもモーゼル社が発売したモノを、モーゼル・ルガーと呼ぶそうです。

◆どっちにしても、モーゼルルガーはP−08のモーゼル社発売モデルとなります。そうすると「真・女神転生 覚醒編」のM1932の説明の「モーゼル・ルガーのフルオートタイプ」と言う説明には、首を傾げるしかありません…モーゼルルガーとM1932を、どんな銃をイメージして、設定したのか、ますます謎になってしまいました。


◆結論
9oパラベラムを、9oルガーとも呼称する様ですので、モーゼルミリタリー9oルガーモデルを省略して、モーゼル・ルガーとしたのではないか。との結論を導いていただきました。モーゼル・ルガーと言うと、モーゼル社OEMのP−08を指すのが通例のようです。

どうにも、ルガーP-08と、ブルームハンドルを混同しているようです。覚醒編のオープニングリプレイでも、モーゼルルガーを普通サイズのハンドガンとして扱っているような記述もありましたし。

まぁ、TRPGの真・女神転生は寿命を終え、鈴木大司教が手ずからお作りになった『新世黙示録−SINAPOCALYPSE−』へ移行したようですし…DDSネットも、メガテンのサポートを廃止した様ですから。覚醒編は、お世辞にも作りが良いとは言えない作品でした。 ぶっちゃけて、個人的に言わせてもらえれば、T氏は、RPGマガジンの記事でさえ、あまり好きじゃなかったしなぁ。



戻る