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Night rise over…なんだったっけ?。とにかく、子供の時に、その物語を読んで、nihgtfallでしょ?。と思ったの。夜の帷は、いつだって降りて来るもの。今日一日という、舞台の終幕を知らせる緞帳。スポットライトが消えるように、部屋の明かりが消されて、眠りに落ちる。それが、アタシの知ってる世界だった。

だからこそ、夜が上ってくるその世界は、異世界なんだと、しみじみ感じたのよ。まぁ、現実でも、夜の街は異世界だけどね。ちょっとケバケバしい夜の蝶を装った夢魔と、革の鎧を着た子鬼たちが歩き回ってるだもん。

私が生きていた頃は、夜の帷は終演の合図だっだけど、今では、開演の合図。どういう意味かって?、夜型になったって事よ。

悪かったわよ、そんな顔しないで。自分でもつまらないジョークだと思ってる。あなたも悪いのよ、分かってるクセに、そんな質問するなんて。

ごめんね、電話も使えないの。私の従僕に、そう言うのが得意な子がいてね、電波を遮断する機械ってので、この部屋を包んであるの。もちろん、防音も完璧。だからって、そんな物騒なモノは出さないでよ。この服、気に入ってるんだから。

それに、賢いあなたのことだもの、拳銃なんかで、アタシの息の根を止められないって分かってるでしょ?。もっとも、息なんて、最初から、してないけどね。

ね、今のは、まぁまぁだったでしょ?
もう、そんな顔しないでよ。でも、今のその泣き顔も悪くないわね。

そろそろ、時間ね。遅れるとマズイのよ。あの人、時計のない時代に生まれたクセに、時間にはうるさいんだから。だめよ、窓は、全部塞いであるし、ここが何階だか憶えているでしょ?。それにもう、日は沈んでいるわ。さあ、眠りなさい。そう良い子ね。夜が上るころには、起こしてあげる。

怯える彼にお休みの接吻。恐怖に引きつった彼も、すぐに恍惚の表情へと変わる。永遠の眠りと冷めない悪夢への招待状。さしずめ私は黒いティンカーベルかしら。

私は、自分の指先に牙をたて、死んだように眠る、愛しい人の唇をなぞる。この一滴の汚れた血が、ヒトの中に眠る獣を呼び起こす。

Night Rise、夜の帷が開く。星という名の照明と、月という名のスポットライト。
開演の時間よ。さあ、目を覚ましなさい。あなたと、あなたの獣は、私にどんな舞台を見せてくれるかしら。

午前2時の外気は、染みいるような冷たく、張りつめている。空には、痛いほど鋭い光を放つ月。闇夜に降る月の光は、まるで銀の雨のよう。死体を満喫するには、またとない日。あの子の初演には勿体ないぐらいの夜。

夜を楽しむことは出来ても、追いかけっこを楽しむほど、時間に余裕はない。グランマがおかんむりなんだから。

そんな顔しないで。大丈夫、ちゃんと取りなしてあげるから。え、ちがうの?。そう。

もぅ、いつまでも泣かないの。さぁ、早くついてきなさい。二度と、そんな想いをしたくないのなら、なおのことね。渇きと獣の対処法を教えてあげる。そうそう、その死体はちゃんと処理するのよ。

もっとも、私たちも死体だけどね。


抱擁と、変成の苦痛と快楽は、例え何世紀を生き抜いた血族だとしても、決して忘れることはない。人間だった頃の最後の痛みと快楽。忘れがたい肉の痛みと快楽。そして、初めての狩りの感触。

闇の輝きと引き替えに失ったモノに恋い焦がれても、それは永久の滅びへの道でしかない。目覚めるたびに、その現実を突きつけられ、気が滅入る。抱擁の瞬間を思い出す日は、ろくな日でない。

空は、重苦しい雲に覆われ、夜風は、生温く重い。イヤな一日になりそうだ。けたたましく電話が鳴る。
訂正しよう。今日はイヤな一日だ。


開幕