指揮系統


 純粋なガンダムネタではないのですが、サイト巡りをしていた折り「18歳に意見を求める情け無い艦長」と言うことが議題になっているところがありましたもので、気にはなっていたのです。ネタそのものは、ノーマルのSEEDだったかと思いますので、結構古いもの。ガンダムネタと言うよりは、ただの軍隊知識だしなぁと思っていたのですが、ネタに窮してきたもので。

 さて、軍隊といっても、現代でさえ、陸、海、空とあります。当然のことですが、陸軍少佐だからといって、乗り合わせた空母の艦長が負傷したからと、空母の指揮を執れるわけがありません。

 さらに、同じ船に限ってみてみても、砲術士官が、艦全体の指揮を執れるわけがありませんし、逆もしかりです(砲術士官から艦長になった人なら別ですが)。そのため、艦長が負傷した場合、砲術大佐や、機関中佐が居たとしても、階級が中尉であっても、副艦長が指揮を執ることになります。

 副長も負傷していた場合、士官候補生が乗っていたとしたら、士官候補生に指揮権が移ります。士官候補生も居なかったら、航海長あたりが執ると思われますが、この辺まで来ると、個人の資質に依存してくるでしょう。指揮系統の断裂から、戦線から離れるかも知れません。

 と言うことを踏まえてみますと、明らかに、兵科の異なるMS部隊に、指揮命令を下す艦長というのは、少々イレギュラーな存在という事になります。

 もっと言うならば、通例、艦隊を組んだ場合、艦隊司令というものが設定されます。艦長が、艦全体の指揮命令権を有するのに対して、艦隊司令は、艦ごとへの指揮命令権を持つと言えます。つまり、艦長への命令権はあっても、艦長の部下への命令権は無い。と言えるでしょう。

 史実の例を挙げると、南雲忠一艦隊司令の「操艦貰うぞ」の一言が有名でしょうか。艦長より、艦の指揮権を剥奪し、魚雷8本を避けたそうですが、これで、一本でも喰らっていたら、職掌の分担を破って、他人の庭に足を突っ込み、花壇を荒らして去っていたと言うことで、さんざんに言われていたことでしょう。つまり、司令は、通例、操艦に関しては、ノータッチであり、艦隊全体を見るべき存在と言えます。

 逆に言えば、操艦しながら、全体の戦況を見渡すことが困難である。と言うことです。ガンダムワールドでは、この艦隊司令が設定されることが、ほとんど無く、艦長と艦隊司令を兼任する場合がほとんどです。ムサイと交戦しつつ、MS部隊の動きまでチェックできた、ブライト・ノアの能力は卓越しており、後の出世も頷けましょう。

 本来の姿を考えた場合、艦艇とMS部隊(現代なら航空部隊)を1個部隊として、運用するスタイルである以上、艦長とMS部隊長、それにくわえて、それらを統合する司令が必須であり、艦内司令部が、艦艇能力とMS能力を考慮して、作戦を立案する必要がある。と言えます。

 そうでない場合は、作戦司令部がかき上げた作戦命令書に従って行動し、艦艇は、ただMSを運び、回収するだけと言うことになります。宇宙の戦士のロジャーヤング(コーベット艦:目立った武装はないハズ)とラスチャック小隊の関係ですね。しかし、独立部隊として動くことが多いMS艦隊には、あまり向かないでしょうし、ミノフスキー粒子によって通信が困難な状況が多いため、命令の受理も難しいでしょうし。

 さらに突き詰めますと、作戦立案のためには、司令官の補佐に、情報担当(敵兵力の分析、現場の状況、地上なら立地や環境、宇宙ならば、敵の索敵能力やアステロイドの有無など)、MS担当(MS戦力評価、航続距離や戦闘可能時間、パイロット練度の評価)、艦船担当(艦の戦力評価、砲の命中精度や最大到達距離、ダメージコントロール力等…宇宙のダメコンってなにするんだろう…気圧変化の修復とか?)、兵站担当(推進剤残量、弾数、食料)などの各参謀が必須です。

 この艦長と艦隊司令兼任というのは、野球で言うなら、プレイングマネージャーで、しかも、捕手をしながら、監督もする。と言う、かつての野村克也氏や古田選手のようなもので、かなりツライと思われます。

 登場人物を増やすと、面倒ですから、艦長と艦隊司令をまとめているのでしょう。艦長と艦隊司令を別個に描いている作品は、結構少なく、まつうらまさふみの「ムーンクライシス」において、空母ベクトラの艦長と、艦隊司令の准将が登場します。また、ガンダムセンチネルにおいても、ペガサスIIIの艦長と、α分遣隊の司令は別個に存在します。

 軍隊知識に長ける0083でも、艦隊司令は居ないのが、残念ですね。まぁ、デラーズとか、ワイアットなどは、艦隊司令っぽいですが。シーマも、MSパイロット兼艦隊司令で、副官が、副司令兼艦長のようなスタイルでしたが。

 ガンダムワールドで、艦長と艦隊司令をまとめるようになったのはブライトのせいでしょう。しかし、彼に非はなく、ホワイトベースの乗組員は、非正規員ばかりで、軍属だったのは、士官候補生のブライトと、パイロット候補生のリュウだけになっていました。オスカーとマーカーは、軍属だったっけ?。

 まともな軍隊知識を持つ物は、ブライトだけとなれば、艦運営からMS部隊の作戦立案までこなさなければならず、それをやり遂げただけでも、大した物です。比較対象として、ホワイトベース地球降下時に、随伴してきた、リード中尉を上げましょう。彼は、完全に、MS運用に知識どころか、発想すら持てず、そんな自分にいらついてか、ブライトに当たり散らしてます。

 さながら、航空機に追い落とされていった第二次大戦の艦隊戦のみを学んでいた艦長のようです。


 さて、本題に戻りますと、私が、SEEDを全く見ていないので、どういうシュチュエーションか分からないため、誤差があるかと思いますが、MS戦が絡んでいる場合、パイロット(概ねパイロットは士官ですので)に意見を聞くことは、なんの問題もありません。本来、一介の艦長が、司令官のような職務まで要求されている方が異常だと、私などは思います。

 また独断せずに、周囲に意見をもとめ、多面的な視点を考察することは、必要であり、また、周囲も意見が通るかどうかは、別として、意見を聞いてくれる上司というものは、好感が持てるものです。ただ、すでに戦端が開いている。交戦状態にある。と言う場合に、意見を聞いたら、腰抜け。決断力に欠ける。と思われてしまうかも知れませんが。

 年齢に関しては、軍隊では、プロスポーツや芸能界と同じく、実年齢より、在歴の方がモノを言います。もちろん、一番、強いのは階級ですが。例えば、軍歴6年の24歳と、軍歴3年の25歳では、階級が同じならば、当然、軍歴6年のほうが上に立ちます。先任。と言う言葉が使われますね。


 ついでに言うと、ガンダムワールドでは、司令部の動きが全く掴めないことが多いです。通例は、作戦司令部の戦略に従って、作戦が立案され、各部隊に伝達されていきます。

 例えば、星一号作戦が発令され、ソロモン攻略部隊の司令官ティアンムは、ソーラーシステムによる掃射を切り札とすべく、ワッケインの部隊と、とホワイトベースに、陽動をさせています。どこまでが、司令部発案かは分かりませんが、サイド3攻略のために、拠点となる場所が必要であり、ソロモン攻略が組み込まれたと考えます。

 ソロモンは難攻不落の宇宙要塞であり、切り札であるソーラーシステムの使用までは、司令部立案でしょう。現場で、どの部隊をどう動かし、ソーラーシステムのミラー展開終了まで、敵に覚られない様にするための作戦は、ティアンムが行ったと考えられます。

 Z以降では、この作戦司令部の動きがほとんど見えないため、戦略性を感じる、軍事行動というものが感じられません。まぁ、Zのエゥーゴはどちらかというと、ゲリラ部隊で、場当たり的な作戦を繰り返していた様にも見えますが。本格的な組織運用は、クワトロがシャアに戻って以降な感じですし。

 0083は、1艦隊(デラーズフリート:fleet:艦隊)による作戦なので、やや小規模ですが、練り込まれた戦略プログラムに基づいて行動しており、また、個の戦術もしっかりとしているので、他のガンダム作品とは、一線を画す軍事アニメとして成立しています。

 GP02Aの奪取から、観艦式への襲撃、コロニー強奪、コロニー落とし。一本筋の通った作戦展開であり、また、見事に敵の裏をかく作戦で、それがまた、見事なプロットワークとして機能しています。観艦式襲撃までが陽動・攪乱ですからねぇ。

 0080を覗いて、他作品は、どうしてもヒーロー物のテイストが強くなっています。生来ガンダムそのものが、ヒーロー物のテイストを持っているので、別段問題はないのですが。0083の方が、ニュータイプ無し、ヒーロー性なし。で、イレギュラーな存在と言えるのですが。



戻る