塩田 州史
日本モデルロケット協会指導講師(GT0328)
E-mail: shushi@st.rim.or.jp
はじめに
より大きなモデルロケットを打上げる様になると、ただ打上げるのではなく搭載物の打上げ等、何か挑戦したくなります。搭載物を打上げる場合、まず搭載物として思いつくのがカメラではないでしょうか?自分はロケットに搭乗できなくても、せめてその視野だけでも見たいという方は多いと思います。日本のロケット開発の父、故糸川英夫教授もカメラを搭載したベビーロケットR型の打上げをペンシルの打上げと同年の1955年に行っている事からもカメラ搭載ロケットは当時から魅力的だったと想像できます。モデルロケットでもカメラ搭載ロケットは打上げられていますが、搭載物の重量の関係上、日本では打上げに都道府県知事の許可が必要になる(注)大型ロケットエンジンを使用しなければならない場合が多い為、打上げの機会はほとんどありませんでした。
最近、実買価格1万円以下の安価なデジタルカメラがおもちゃメーカーを中心に数多く発売されています。これらは画素数は10〜35万画素と少ないのですが、小型軽量で、動画も録画できます。横浜市の山本氏(現在筑波宇宙センター勤務)は安価デジカメを搭載したモデルロケットの製作・打上げに成功しました。以前に比べ小型のモデルロケットエンジンで上空からの映像の撮影や微小重力実験を簡単に行うことができる様になりました。
※注 打上げ時の総火薬量が20g以下の場合エンジン、イグナイターは玩具煙火となるが、20g超の場合はエンジンは火薬類、イグナイターは火工品となり、購入及び消費には都道府県知事の許可が必要になる。
カメラ搭載モデルロケットの歴史
世界最初のカメラ搭載のモデルロケットは1961年ペンシルバニア州のLewis Dewart氏によるものだと言われています。このロケットには小型の日本製カメラが取り付けられていて、上空で放出火薬がノーズコーンを吹き飛ばすと、紐か引かれてシャッターを切り撮影したようです。1962年にはニューヨーク州のPaul Hans氏とDon Scott氏によってゼンマイ巻きの8mmフィルムを使用した動画撮影用のモデルロケットが世界で初めて打上げられ、上空からの映像を撮影しました。その後、110カメラを搭載したモデルロケットのキット(ESTES社 ASTROCAM)が発売されたり、モデルロケットエンジンの大型化とビデオカメラの小型化によりビデオカメラを搭載したロケットを打上げたりと、カメラ搭載ロケットは世界中で盛んに挑戦されています。
日本でもカメラを搭載したモデルロケットはいくつか打上げられています。千葉県の 石原氏は90年代の初めに35mmカメラを搭載して上空からの連続撮影に成功しています。石原氏はこれを発展させ、カラーCCDカメラと1200MHz帯 1Wのテレビ映像送信機を搭載したモデルロケットをD型4本クラスター及びI型エンジンで打上げ、上空からの映像を地上で受信して録画に成功しています。
1998年にはモデルロケット搭載物コンテストで優勝した当時中学2年生の菅野優太君が製作した 「空中写真連続撮影装置」 が秋田県の道川海岸でJ型ロケットにより打上げられましたが、パラシュートが開傘せずに海面に落下して大破してしまいました。しかし回収されたフィルムの一部は現像することができました。このように日本でも多くの方がカメラ搭載ロケットに挑戦していますが、大型モデルロケットエンジンを使用するので都道府県知事への許可申請の関係上、打上げの機会が限られているのが現状です。
安価デジカメ
最近、実買価格1万円以下のデジタルカメラが数多く発売されています。画素数は少なく、液晶画面が無いですが気軽に撮影できるというので人気があるみたいです。モデルロケットに搭載できそうなデジタルカメラを下表にまとめました。これ以外にも数多くありますので、探してみて下さい。
名 称 | メーカー | 動 画 | 重 量 | 定 価 | 対応OS | その他 |
STICKSHOT | タカラ | 約8秒 | 約60g 電池含む |
7,980 | Win98/SE | |
STICKSHOT MX | タカラ | 352×288で約7秒 176×144で約28秒 |
約60g 電池含む |
8,980 | Win98/SE | |
プチショット | タカラ | 640×480で約4秒 320×240で約14秒 |
約70g | 12,800 | Win98/SE,Me Mac8.6-9.0 |
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C@Mail-F38 | バンダイ | 160×120で約10秒 | 約150g 電池含む |
9,980 | Win98/SE,Me Mac8.6- |
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Che-ez! baby | NH Japan Holdings Litmited |
○ | 約50g 電池除く |
オープン | Win98/SE,Me,2000 Mac8.6-9.1 |
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ix-1 | 富士フイルム アクシア |
○ | 約94g 電池含む |
オープン | Win98/SE,Me,2000 Mac8.6-9.0 |
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Me:2plum | トミー | ○ | 9,800 | Win98 | ||
Yahoo! Digital Camera |
トミー | 176×144で約10秒 | 約137g 電池含む |
7,980 | Win98/SE,Me,2000 Mac8.6- |
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Pocket PC Camera | インテル | 160×120で約120秒 | 16,800 | Win98/SE,Me |
※数値はカタログより 上記機種は全てUSB対応
写真1:デジカメ搭載ロケット | 写真2:上空からの映像 |
映像:上昇動画(磁気試験棟)(AVIファイル 約800K byte)
写真3:微小重力実験用ロケット ノーズコーン内に水を入れたカプセルが2つある |
写真4:打上げ前のカプセル カプセルには着色された水が半分程入っている |
写真5:微小重力状態のカプセル カプセル内の気泡が水の中央に浮かんでいる |
映像:三次元ドーナツ(AVIファイル 約700K byte)
おわりに
宇宙開発や微小重力実験と聞くと、何か特別な事をやらなければいけないと思われますが、モデルロケットやデジカメ搭載ロケットの製作・打上げを学生自身が体験することにより、宇宙開発等を身近に感じ、これらに興味や魅力を持ってくれれば幸いです。また、山本氏の微小重力実験は微小重力状態の時間も短く、まだまだ改善する余地はあるのかもしれませんが、デジカメ搭載モデルロケットはアイデア次第で教材として無限の可能性があると思います。皆さんも工夫してデジカメ搭載モデルロケットを製作し、安全に留意して打上げを行って下さい。
この原稿を書くのにあたり、惜しげもなくロケットと映像を提供して下さった山本浩之さんに感謝致します。山本氏の勇姿は こちらをご覧下さい。
参考ホームページ
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平成13年度筑波宇宙センター特別公開
◎
仙台電波高専 宇宙工学研究会
◎
日本モデルロケット協会
参考文献
◎「日本ロケット物語」 大澤弘之監修 三田出版会発行 ISBN 4-89583-150-7
◎「Handbook of Model Rocketry」 G. Harry Stine 日本語要約版 ブラスト・オフ発行
◎「宇宙と天文 No.3特集・宇宙観測総力展開」 宇宙と天文編集部編 誠文堂新光社発行 ISBN 4-416-29910-9
◎「飛ばせ!手作りロケット」 日本モデルロケット協会編 誠文堂新光社発行 ISBN 4-416-39905-7
◎「YPCニュース No.161」 横浜物理サークル発行
デジカメを使った空撮関連のホームページ
◎天神さんの
自動撮影軽量デジカメによる気球空撮
◎チーズ・スティック改造とラジコン飛行機搭載による空撮
◎4年目にしてやっと成功した菅野優太君の「空中写真連続撮影装置(デジカメ版)」の空撮画像
◎石原さんのホームページ カメラ搭載ロケットで撮影した空撮動画が数多く公開されています