結局、ジェフドは逃げられるわけもなく、そのまま城へ連れ戻され、ルドモットに叱られる羽目になった。
最初、ルドモットは、息子の姿に唖然として、声もでなかった。
「名案だと思ったんですが。」
テイトが退出してから、そう言った。
あまり反省していないらしい。
「やりすぎだ。ジェフド。」
ため息混じりに、ルドモットは、息子をたしなめた。
ジェフドは、話を聞いてないのか、
「結構、似合ってると思いましけど、父上、どう思います?」
余程、吟遊詩人の衣装が、気に入ったらしい。
「それは、そうだが……。」
つい、うっかり返事をしてしまった。
実際、街角にいれば、誰も疑わないだろう。
「そうですよね。今度からこれにします。大丈夫、絶対ばれませんから。」
そういう問題ではないのだが、ルドモットは、あまりにジェフドが無邪気に喜んでいるので、怒る気も失せてしまった。
やめろといった所で、この調子では、素直にきくかどうか。
見かけより、ずっと強情なのは、ルドモットとテイトにしかわからない。
確かに、男が頭から、すっぽり布を被れるのは、滅多にない。
おまけに竪琴が得意だったのは、ジェフドにとって幸いだった。
元々、今は亡き母の趣味で、いつのまにか、彼も弾くようになった。
王妃の面影を残す外見と竪琴の音は、ルドモットにとって喜ばしく、慰めであったが、こんな羽目になろうとは。
「他の者に見られぬようにな。」
重臣たちに知られれば、何を言われるか。
もっとも、テイトはルドモットほど寛大ではなく、なかなか着替えようとしないジェフドに
「絶対、部屋から出ては駄目ですよ。おとなしく閉じこもっていてください。」
強く言い残して、国王の元へ急いだ。
「父上が許可してくださった。」
などとジェフドが言うものだから、確認しに行ったのだ。
もちろん、ルドモットは、本気でそんなつもりはない。
だが、彼は息子に弱く、また信頼もしている。
「あまり怒るな。ジェフドはきっと大物になる。なに、その内落ち着くだろう。」
「そうでしょうか。」
テイトは不安になった。
興味のないことには飽きっぽくても、好きなものには夢中になるジェフドが、簡単に諦めるとは思えない。
「あの奇抜な発想は、誰にもできぬ。ジェフドの才能はそういうところだ。」
器が大きいことは、テイトも感じている。
おとなしそうに思われがちだが、あくまで容姿の上だけだ。
「無茶をせぬよう、気をつけてくれれば、今は良い。」
これ以上の無茶とは、何を指すのか、テイトには考えられない。