二月にある一大イベント。
 バレンタインデー。

 あちらこちらに特設会場が設けられ、制服の女の子や若い女性で溢れかえる。
 赤やピンクの包装紙でかわいらしく、おしゃれにラッピングされたチョコレートが山となって飾られている。

「やっぱり本命はこっちかな?」
「まったく、義理チョコも大変だわ。」
 一つ一つ手にとって見本を眺める女の子に、かごに同じチョコをわしづかみに入れる女性もいる。

 しかし!
 肝心の主役(?)のチョコレートの立場は!?
 おいしく食べてもらいたいのに、本命だ、義理だとランク付けされるなんて。
 たかがチョコ、されどチョコ。
 どちらに転ぶかで命運がわかれてしまう。

 どうやら本命用、義理用、どちらも○という、三タイプが、この世界にはあるらしい。
 高級な一粒ずつ選べるチョコは、もちろん本命まっしぐら。
 学校や会社で配る義理チョコは、個包装で大箱か、小さくて持ち運びやすいか。
 同じお店での使い分けのポイントはチョコレートの種類。
 やはりトリュフチョコが人気らしい。
 
 手作りコーナーは、まったく別だ。
 溶かして固めるだけとはいえ、作り方で味も違う。
 大好きな人に真心を添えたい乙女心。
 この売り場のチョコレート(及び原材料)はさぞかし誇らしいだろう。

 だが、どちらになるか微妙なチョコレートたち。
 できれば、ぽんぽんと渡される義理チョコより、心を込められる本命チョコでありたい!
 チョコレートにしても複雑なのだ。

 もっとも。
 義理と見せかけて実は本命、なんていうこともある。
 おなじクラスの人気者、A君。
 学校中の憧れ、サッカー部のB先輩。
 職場のエリート、Cさん。
 一人だけ本命なんてあげたら、抜け駆けだと、後ろ指を差されてしまう。
 おまけに告白する勇気もない。
 そんな彼女達にとって、義理チョコは都合の良い隠れ蓑なのだ。

「はい。バレンタインデーのチョコレートです。」
 もらう方も今日は二月十四日かと、
「あ、どうも。」
 何の抵抗もなく受け取る。
 自分だけ特別だとは、特に思っていない。

 もしも、一人だけ包装が違ったら、それは本命かもしれない。
「数が足りなくて。」
 そんなのは言い訳だ。
 別に他のチョコにすればいいだけの話なのだから。

 チョコレート諸君!
 もしも、丁寧に一つずつ吟味されたら、本命だと胸を張ろう。
 まとめ買いされても、落ち込んじゃいけない。
 充分、場を盛り上げる小道具として、脚光を浴びるのだから。

 せっかくおめかしされたチョコレート。
 願わくは、本当に喜ばれる人の元へ贈られんことを…


                               <完>

            どこもかしこもバレンタインなので、書いてみました。
        某デパ地下の「夢見るオトメに、勇気をあげる」に煽られてしまった…
                       誰が考えたんでしょうね?             
    
       
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