翌日から、小さな修道院には、入れ替わりに貴族や騎士達がやってきた。
目立たぬ服装をしてはいてもわかるものだ。
場所柄を考えてか、いつも二人か三人だが、一体何しにやってくるのか。
事情を知らない者たちは、そう思っているに違いない。
宮殿の一室では、テーブルを囲んで十人ほどの男達が、深刻そうな顔をして集まっていた。
レスター候とウォレス伯も、その中にいる。
テーブルの上には、書類が何枚も置いてある。
「ほぼ、間違いないな。」
「そうであろう。陛下には、報告書を御覧になっていたかなくてはなるまい。」
「もし、人違いであればなんとする。」
「それでも一度は…」
ウォレス伯が言いかけたところで、部屋の外で物音がした。
一人は立ち上がり、テーブル上の書類をまとめて片付け、もう一人、扉へ近付き、開けた。
「誰もここには近寄らぬよう、申したであろう!」
レスター候の声の先には、エンリックと彼を制止しようとした侍従がいた。
「私が入れない場所があるか。」
「陛下…!」
驚くレスター候の横をすり抜けて、エンリックは室内へ入っていった。。
その場にいた全員が、立って迎える。
「まったく、気が付かないと思ってるのか。ここ数日、様子がおかしいと思っていれば、誰も何も
言わぬ。どうなのだ、見つかったのか。」
フォスター卿が、手にした書類を差し出した。
「正式な調査書としては、まとめてあげてはおりませんが、それでよろしければ、どうぞ御覧ください。」
エンリックは、受け取ると立ったまま読み始めた。目が真剣に文字を追う。
一枚、二枚、と何枚か読み終えたエンリックは、そのまま部屋を出て行った。
一瞬の後、追いかけようとする者を、レスター候は首を横に振って、止めた。
今は、落ち着くまで一人のほうが良い。
あの文書をどう判断するかは、エンリック次第だ。
これ以上は調べてもわからないのだ。
本人しか知らないこともある。
夜遅くまで、エンリックは私室に籠もりきりだった。
何度も読み返しては、考え込んでいた。
翌朝から、エンリックは時間を割いて調査に携わった人間に、一人一人話を聴いた。
誰に何を尋ねても同じ言葉しか出てこないことを確認して、決断した。
数日たった日の午後、立派な仕立ての馬車が一台、修道院の前に止まった。
「ティア、院長様がお呼びです。」
彼女は院長室に入るまで、何も知らなかった。
今までの訪問者も、今日の来客も、自分に関係あることとは、夢にも思わなかったので。
「院長様、何か御用でしょうか。」