ウォレス伯は感心して、
「良くできていますね。本物かと思いました。」
飾られた造花を褒めた。
「ありがとうございます。そうおしゃっていただけると嬉しいですわ。」
かすかにほころんだ表情からすると、エレンの手の物らしい。
赤や黄、ピンク、取り取りの色が使われている。
「明るい色がお好きなのですね。」
「はい。光に合いますもの。」
−それは貴女自身だ−
思わず出かかった言葉を、ウォレス伯はお茶と共に飲み込んだ。
エレンとの会話は静かなものだが、それとなく普段の様子が垣間見える。
本当に教会通いと奉仕活動以外、邸から出ないようだ。
それも病がちの母に勧められて、少しでも外出が多くなったという事だ。
「何となく人に会うのが苦手で…。」
エレンは弁解のように言ったが、怖いのかもしれない。
人の目に触れることが。
「私ではお役に立ちませんか。」
「はい。いつもお世話になってありがたく思っております。」
エレンはウォレス伯の言葉を、社交辞令として受け取った。
そうではない。
ウォレス伯は困りつつ、悩んでいる暇もなく、続けた。
「そういったことではありません。その、私と正式にお付き合いしていただきたい、という意味です。」
エレンは、手に持ちかけたティーカップから、白い指を離し、一瞬、目を見張り、すぐ悲しそうに首を振る。
「駄目なのです。」
もし、嫌だと言われたのなら、身も引こうが、駄目とは何ということか。
「私には人様には言えぬような過去が…。」
「それは貴女のせいではない!」
ウォレス伯はエレンの言葉を遮った。
相手が好きな女性でなければ、もっと声を荒立てた事だろう。
「もしや、ご承知の上で…?」
エレンの質問には答えず、ウォレス伯は口を開いた。
「以前、王宮には別の住人がおりました。そこへ今の陛下を主君と仰いだ私を、謀反人、と貴女は責めますか。」
エンリックは正当な権利を主張した。心ある者は誰もが加担した。
「いいえ。事情が違いますもの。貴方には当然のことだったのでしょう。」
「貴女も同じです。当時、貴女は御自分の立場としてできるだけのことをなさっただけのこと。誰が非難する権利もありません。そのような者がいれば、私が守ります。」
一気に話し終えてから、ウォレス伯は立ち上がる。
どうやら、お茶の雰囲気では、なくなってしまった。
「本日はこれで失礼させていただきます。」
一礼して立ち去る際、
「人は、前を向いて生きていくべきだとはお考えになりませんか。」
その言葉を残して。
エレンは座ったまま、何の返事も出来ずに、ウォレス伯の後姿を見送った。
我に返ったのは、完全に視界から、彼が消えた後だ。
慌てて追いかけた時には、すでにどこにも見えなくなってしまっていた。
エレンのうわの空の状態に気が付いたのは、母の男爵夫人。
「どうかしたの。エレン。」
ベッドに半身を起こし、娘に訊ねる。
「お母様。無理をなさってはいけませんわ。」
エレンが横になるように勧めた。
「大丈夫ですよ。今日は気分が良いから、起きていようかと思ったくらいです。」
肩から、ショールをかけ、エレンに向き直る。