「ティアラもサミュエルも優しくて良い方だと言っているが、エレン夫人にもそうなのだろうか。」
「多分。」
 エレンがウォレス伯をすっかり信頼しているのは窺い知る事が出来る。
 他人の目にはわかりにくいが、ウォレス伯も微妙な変化が出てきた。
 結婚して以来、大きく態度が変わったわけではないが、物腰が柔らかくなった。
 これはレスター候とヘンリー卿以外では気付くのが難しいかもしれない。
「随分、人間が丸くなってきたと思います。」
 レスター候は友人を弁護するかのように付け加えた。
「そうか。」
 エンリックは返事をしたが、どことなく納得しかねる様子で、その後の言葉にレスター候は吹き出したくなるのを我慢した。
「私はあまり優しくされた覚えがない。諫言ばかりだと思うのは気のせいか。」

 エレンやソフィアは、どこかへ顔を出せば色々語ってくれるので、ティアラは話を聞くだけで満足している。
 もちろん興味はあるのだが、自分はそういった場に出向くほど、大人ではないと思っている。
 ルイーズにもタイニード伯を通じて誘いは来るのだが、一応、宮廷に出仕している身なので遠慮している、という建前だ。
 人の集まる所が好きであっても、ルイーズは笑いさざめく貴婦人達の会話が苦手なのだ。
 世の中気の置けない人間ばかりではない。
 少なくとも都にいる間は、タイニード伯の面目もあるし、ひいてはティアラやマーガレットに恥をかかせるわけにはいかない。
 人前で自由気ままに振舞って、失態を晒してはいけないという自覚はある。
 もっともタイニード伯も最近ルイーズを見直してきている。
 破天荒な性格ではあっても、女らしい趣味もあることだし、教養も作法も一通り身に付いているのであれば、いずれ縁談もまとまるに違いない。
 ルイーズも何のために宮廷へ出されたのか、見当は付く。
 何度も勧められた縁談を断っているせいに決まっている。
 地方領主の娘が都へ上がれば箔も付くという、考え合ってのことだ。
 もっともルイーズ自身、性格は少しも変わらないのである。

  第十二話  TOP