風のないある日のこと。
いつも笑顔を振りまいているルイーズが何となく沈んでいるように見えた。
一人でいるせいかとも思ったが、レスター候は気になって声をかけた。
またタイニード伯に何か注意でもされたのだろうか。
「お一人とは珍しいですね。」
庭園のベンチに座っていたルイーズは、気が付いて立ち上がった。
「はい。マーガレット様は診療中でティアラ様は文学のお時間ですもの。」
レスター候はあたりを見回した。
「サミュエル様はいかがされてます。」
「陛下がお相手をなさってますわ。」
ルイーズが微笑んで答える。
どうやら、親子の邪魔をしないように散歩に出てきたらしい。
エレンもソフィアも今日はまだ来ていないのだろう。
ランドレー夫人はマーガレットに付き添っているはずだ。
「都の生活には慣れましたか。」
「はい。思ったより過ごしやすいですわ。気に入っているのですけど。」
また、ルイーズの顔が曇る。
「何かお困りのことでもありますか。」
「私、帰郷するかもしれません。」
ルイーズが多少元気がないのは、そのせいらしかった。
「せっかく皆様と仲良くさせていただいてますのに、残念ですわ。」
レスター候も驚く。
ティアラもサミュエルもすっかりルイーズと打ち解けていたし、ウォレス伯もエレンに友達が出来てよかったと話していた。
第一、タイニード伯から何も聞いていない。
「どうして、こんなに急に。」
「元々、行儀見習いですもの。おじさまもそろそろ良いだろうと思っているらしいのです。私はもう少しいたいのですけれど。」
きっと帰れば、また縁談。
ルイーズはため息をつきたくなる。
レスター候も慌てた。
行儀見習いが終わって領地へ帰ってしまったら、ルイーズは滅多に都へ上がらないだろう。
それどころか、他家へ嫁いでしまう。
「いらっしゃればよろしいではありませんか。」
レスター候は声に熱がこもる。
この時、やっと自分がルイーズを引き止めたい理由がわかった。
いつのまにか魅かれていたのだ。
型にはまらず気取らないルイーズに。
「あまり長くは無理ですわ。」
「是非都に留まっていただきたい。タイニード伯の所が無理なら、私の元へ来られませんか。」
ルイーズは黒い瞳をいっぱいに見開いて、レスター候を見つめる。
社交辞令ではない。
「田舎娘だと思ってからかっていらしゃいますの。」
「とんでもありません。」
「どういう意味でおっしゃってくださっているのかしら。普通は求婚されているのかと思いますわ。」
「そう受け取っていただきたい。」
レスター候は大真面目だ。
こんな形で口に出す気はなかったのだが、開き直ったら気が楽になった。
ルイーズは顔をほころばせて、レスター候に問う。
「私、本気にしてしまいます。馬や弓が好きな女を妻になさるつもりですか?」
「貴女は勇敢でひたむきです。共に人生を歩いて行かれる気がします。それに私も弓は得意です。」
槍では親友のウォレス伯に一歩譲るが、弓では引けをとらない。
大体、レスター候はルイーズのこの闊達さが気に入っているのだ。