レスター候もタイニード伯もお互い多忙な身の上のため、結局、挙式の後はガーデンパーティーという形になった。
 広いだけでろくに手入れされていない庭を見て、レスター候は大至急庭師を手配した。
 花嫁の用意はルイーズの母親とタイニード夫人が着々と進めている。
 ルイーズはかなり間際まで、王宮に出てきた。
 もちろん奥で過ごす時間が貴重だからなのだが、婚約者との打ち合わせにも都合が良い。
 さすがに私用では、ルイーズがレスター候かタイニード伯の控え室に出向いて、短時間で事柄をまとめていた。
 日増しに暖かくなる陽気と共に、身辺が慌ただしくなったレスター候は、
(去年の春も忙しかったか。)
 と、思う。

 ティアラ・サファイアが王宮に入って、もうすぐ一年が経とうとしていた。
 確かに周囲は変わった。
 国王の生活の変化は宮廷内外、臣下にも及んでいる。
 ダンラーク全体が動いていくようであった。
 かつて多くの者が待ち望んだ治世が訪れているのである。

 快晴で雲一つない日、レスター候とルイーズは結婚した。
 花嫁衣裳のルイーズは誰の目にも美しく映った。
 ティアラが春の陽だまりを感じさせる美しさであれば、ルイーズは夏の陽射しを思わせる。 
 場所を移したガーデンパーティーの席上、ヘンリー卿が呟いた。
「まさかテオドールにまで、先を越されるとは考えてなかったな。」
「一人に決めるのも良いと思うが。」
 ウォレス伯はルイーズと歓談するエレンを見やって、言った。
 ヘンリー卿は親友二人の表情がやわらかくなったことを感じる。
 やっと自分を省みる余裕ができた証拠であった。
 
 時間があれば、是非顔だけでもと、フォスター卿も招待状を受け取っていた。
 会議もないのに、エンリックに呼び出された時点で断念したのだが、用向きはこうだった。
「レスター候夫妻へ祝いを届けてくれ。」
 もちろん、エンリックの心遣いだが、もう一つはティアラも同行する。
 当分ルイーズと会えなくなることでティアラもサミュエルも寂しがっている。
 ティアラの迎えの使者であったレスター候。
 祝辞を述べに行ってもおかしくないと考えてのことだ。
 王宮の温室咲きの花を山ほど抱えて、ティアラとフォスター卿が現れたのは、パーティーの盛会の最中であった。
「本日はおめでとうございます。お二人の幸福を願っております。」
 ルイーズは素直に喜んでティアラの祝福を受けているが、両親のカネック夫妻はすっかり恐縮していた。
 花婿が国王の腹心であっただけでも大変な事だが、愛娘までもが王女自ら言葉を交わす間柄であったとは。
 都の中で気後れをするのではないかとは、杞憂にすぎなかった。
 どこにいようとルイーズの持って生まれた性質が人々に愛されるのであれば、喜ぶべきことなのである。


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