しばらく国中は祭り気分であった。
大きな行事を開催できるほど、安定した国政に、皆、幸福を味わったのである。
一方、受難の日々が待ち受けたのはフォスター卿だ。
騎士として名が高まったと同時に、再び近衛を始め、各騎士隊、はては海軍から誘いが来てしまった。
もちろん、エンリックの元にもだ。
散々、勇姿を見せ付けられたからには、武官達も中々おさまらない。
おかげで、フォスター卿は文官達にかくまわれることになった。
執務室に駆け込まれては仕事にならないので、昼は大臣室、夜はといえば、近臣たちが家に連れ帰る事にした。
時に腕試しを挑んでくる者もいるためだ。
あくまで自分の手元におきたいエンリックは、
「駄目だ。フォスター卿にはいずれ奥の警護を専任させるから渡せない。」
この際、方便も必要だ。
国王一家の身の安全とあれば、仕方なく将軍達も未練はあるものの、引き下がるしかない。
追い回されて官舎にもろくに帰れなかったフォスター卿は、やっと一息つくことができた。
すっかり武術大会に感激したサミュエルは、前より熱心に身を入れるようになった。
レスター候とウォレス伯が参加していなかったので、無邪気に、
「もし、三人いたら誰が一番強いのですか。」
これには返答も困る。
少なくとも、エンリックが中に入っていない事は確かなようであった。
理論はともかく、技量がないのは事実で、父親としてやるせない面もある。
エンリックが武術に関して教えられる日は、じきなくなるだろう。
(もっと腕を磨いておけば良かった。)
今となっては手遅れだが。
並の騎士より腕の立つ教官が三人も付いている以上、サミュエルがエンリックを追い越すのは、遠くないように思えるのであった。
第十四話 TOP