第十四話

 子供の成長は早い。
 サミュエルもだが、ローレンスも日々変化を見せる。
 一人で這いまわれるようになると、周囲の者達は後を追うのに必死である。
 何でも掴んで口に入れようとするので、ローレンスの手の届くところに物が置けない。
 動くわりに何故か本人は無傷だが、サミュエルが生傷が絶えない。
 テーブルの下に潜った弟を引き戻そうとして、自分が頭をぶつけたり、遊んでもらっているつもりで、勢い良く叩かれたり、後ろから足を引っ張られ転んだり、大変な目にあっている。
 マーガレットやティアラの目が届かなくても、サミュエルがローレンスのお守りをしてくれている。
 これまでサミュエルは、自分より小さな子の世話をしたことがなかったので、「お兄さん」になって嬉しいのだ。
 一日の内で顔をあわせる機会の少ないエンリックより、サミュエルになついてしまったので父親として落ち込んでしまった。
 ローレンスを抱いて散歩にでたまま、執務室に戻り、
「殿下がいなくなった!」
 騒ぎを起こし、もしやと様子を見に来たランドレー夫人にきつく注意された。
「勝手にお連れにならないでくださいませ!」
「私が息子と一緒にいて何がいけない!?」
「執務室でどうなさるおつもりですか。」
 赤ん坊の面倒をみながら、公務をこなせるわけがない。
 以来、エンリックが無茶しないよう、時々ティアラやランドレー夫人が、昼間ローレンスを抱いてやってくるようになった。 
 ローレンスの顔を見て喜ぶのはエンリックだけではない。
 臣下達も元気な皇太子の姿に安堵するのであった。

 立ってよちよち歩きする頃には、ローレンスのいたずらも多くなる。
 サミュエルの被害も大きくなるので、ティアラは救急箱を持ち歩く。
 かすり傷程度だが、ローレンスは手加減をしらない。
 積み木を思いきりぶつけられて、赤くなったりしている。
「大怪我をしなければよいが、大丈夫か。」
 マーガレットよりエンリックがサミュエルを心配した。
「男の子ですもの。あのくらいの子は手がつけられませんわ。」
 かつてサミュエルも手が焼ける時があった。
 もう少したてば、ローレンスも遊び方を覚えるだろう。
 いつも人に囲まれているせいか、ローレンスはあまり人見知りする子ではなかった。
 大きな病気をするでもなく、元気良く、育っていく。
 ローレンスが何の単語か聞き取れない片言を話し出す頃、マーガレットは再度身ごもった。
 また、子供が増えると知って、エンリックは大喜びする。
「お前も『兄上』になるのだから、もう少しおとなしくしなさい。」
 言ってもわかるはずのないローレンスを抱き上げている。
「今度も元気な子だと良いですわ。」
 ティアラがマーガレットに微笑みかける。
 先に男の子が生まれているので、次は女の子、と思っているのはエンリックだけではない。
 ティアラやマーガレットも実は考えている。
 マーガレットが退屈しないように、ルイーズやソフィアも足を運んでくれた。
 最近エレンは気分がすぐれないことがあるらしく、ウォレス伯を心配させている。
 それでも王宮で楽しく過ごしていると、気がまぎれるらしく、出仕する夫に付いてくるのであった。
 そんな折、ルイーズが王宮の奥から走りこんできた。
 家の中では駆け回ろうが、飛び跳ねようがレスター候は何も言わないが、さすがに宮殿の廊下とあってはそうもいかない。
「ルイーズ、ここではもう少し静かに…。」
「それどころではないの。あなた、ウォレス伯は?エレン夫人がお倒れになったの!」
 妻の言葉を聞いたレスター候は、親友の執務室にノックもせずに入りこんだ。