根掘り葉掘り問い質され、恐縮してやまないのはカイル卿だ。
ビルマンは元より、他の者もクラウドに直接言えない分、とばっちりも多い。
「もっと気を利かして国元に報せておいてくれれば、こんな騒ぎにならなかった。」
そう責められる事もある。
しかし、双方の名誉のため、黙っているしかなかったのだ。
カイル卿にしてみれば、どうみてもクラウドの片想いとしか思えなかったから。
周囲の思惑など、意に介していないクラウドは、妹達にも、
「もうすぐお姉様になってくださる方がいらっしゃるから、楽しみにしてなさい。」
ティアラのことを吹聴する。
滅多に話し相手にもなってくれない兄だが、ダンラークからドルフィシェに戻って以来、良く部屋にも顔をだす。
王宮の外にほとんど出たことがない二人の妹姫に、ダンラークでの出来事を色々聞かせた。
姉弟仲の良いティアラの態度に触発されたのか、クラウドは忙しくても、毎日、一度は時間を取るようになったのは大きな変化だ。
「なんだかお兄様、前より優しくなったみたいだわ。」
いかに妹の面倒を見ていなかったか。
クラウドが耳にしたら、さぞ反省するだろう。
夏の終わらない内に、ダンラークには次々とドルフィシェからの使節がやってきた。
本当に国王と臣下を短期間で説得したのかとエンリックは妙に感心し、見直した。
クラウドにすれば、今すぐにでも嫁いで来てもらいたいのだが、王族同士の結婚ともなれば、準備に時間がかかる。
何せお互いの国の間で行き来しながら、話を進めなければならない。
一回や二回往復した所で、決まらないのは当たり前だ。
あっさり婚約が整っただけでも稀有であるといっていい。
ところでクラウドは大変筆まめであるらしく、使者がある度、必ずティアラに手紙を寄越した。
カイル卿が何かの用で、クラウドの私室を訪れた時、開いていた窓からの風で、一枚の紙が飛ばされてきた。
何気なく拾い上げ、他人の私文書を読む気もなく、クラウドに返そうとした。
が、ふと文面が目に入って、手が止まった。
「勝手に読むな。無礼者。」
慌ててクラウドが取り返すところをみると、ティアラへ送る手紙の一部だったらしい。
「まさか、姫へのお手紙、ですか。」
「悪いか!?」
「殿下、恋文は日記ではありませんよ!?」
ちらりと見た限り、なんとも情緒のない文章だった。
「どこか変か。」
クラウドは不安になったらしい。
変か、と聞かれても、カイル卿とて女性に恋文を書いたことがあるわけでもなく、説明のしようがない。
「もっと、こう、詩を引用なさるとか。」
「何で他人の書いたものを出さなくてはいけないんだ。」
「では物語や詩集を参考になさってはいかがですか。」
「私に書けるか。恥ずかしい。」
一応、手にとって読んだのだろう。
良く見れば、机の上に何冊かの本が置いてある。
「姫様方にお話を伺ってみるのもよろしいかと存じます。」
「子供だぞ、二人とも。」
「女性が喜ばれる言葉であれば、殿下より知っておられましょう。」
何通も、この調子で恋文を送っていたのであれば、ティアラは何と思っただろうか。
情操教育に関して、まったく自分の及ばなかった事を、カイル卿は深く反省することになった。
クラウドの便りを、ティアラは当然誰にも見せなかったから、内容を知る者は書いた本人と彼女しかいない。
丁寧ではあっても、恋文とは言い難い面もあるが、クラウドの心遣いがティアラには嬉しかった。
途中からどことなく変わったのは、それと気が付いたのであろうか。