さぞ待ちくたびれたであろうレスター候とフォスター卿は、そんな表情は一つも見せない。
 エンリック一人の忍び歩きの供であれば、何か一言くらい苦言を呈したかも知れないが、今日はティアラもいる。
 それに加えて、あいまみえることなかったフローリアの墓参の帰途では、多少の時間のずれなど問題にできようはずもなかった。
 ただでさえ、レスター候はティアラとの再会の日に、エンリックが酔いつぶれていることを知っているだけに、何も言えない。
 今日こそ、最愛の妻がこの世にいないと、痛感したに違いないのだから。

 遠くない昔、結局一人で都に戻ったエンリックは、
「二人が見つかるまで、即位の儀式は執り行わぬ。」
 とまで思いつめ、周囲の者達を困惑させた。
 実際、三年、五年と月日が経つとエンリックは忘れるどころか、一層強く捜し求めた。
「いっそ、あの館に戻ろうか。」
 そうすれば、また三人で暮らせる、エンリックはそこまで考えた。
 当時、言葉を聞いて仰天した腹心達は、
−今の陛下なら、本気でやりかねない。
 と、前にもまして、必死の捜索に励むことになった。。
 エンリックが勝手に王宮を飛び出したことも、一度や二度ではない。
 その度に、
「家族を守れぬ王位に何の意味がある。」
 嘆くエンリックは、見ているものが辛いほどだった。
 今となっては、思い出話だ。
 無駄足も覚悟した彼らの苦労も報われたというものだ。
 あの頃は、こんなこともあったと、いつか話せる日がくるだろう。


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