ティアラは自然と笑みがこぼれる。
緊張していた心が、一気にほぐれていく感じであった。
反対にカイル卿は、横道を駆けながら、クラウドに叫ぶ。
「なんという事をなさるのですか。私は心臓が止まるかと思ったのですよ。」
「待つのがもどかしくて、つい。」
「少しは反省なさってください!」
当然クラウドは帰り着いてからも、散々叱責された。
「何を考えている!お前がそこまで大わけだったとは思わなかった!」
花嫁に一目会えて上機嫌なクラウドとは裏腹に、ビルマンは怒気で真っ赤になった。
カイル卿はクラウドから目を離すべからず、と厳命される。
扉の外にも、何人も見張りが付いた。
「もう、どこにも行かないが。」
「殿下。お咎めを受けるのは私です。責任を取らされたらどうしてくれますか。」
「投獄されても、すぐ恩赦で出すよう計らうから、安心しろ。」
とんでもないことをさらっと言う。
本来、和やかであった雰囲気を、一気に狂わせた張本人は罪悪感のかけらもない。
式が無事に終わる事を、カイル卿は切に願うのであった。
いよいよティアラが到着する。
クラウドがビルマンと共に、迎えに出た。
周囲の目を無視するかのように、ティアラを、まるで抱きかかえるかにして、馬車から降ろす。
「待ちかねた。姫。」
「殿下…。」
ティアラがクラウドに腕を取られて、ビルマンの前に進み出る。
「姫、父王ビルマンだ。父上。ダンラークのティアラ・サファイア姫です。」
「陛下にはご機嫌麗しく存じ上げたてまつります。ティアラ・サファイアです。末永くよろしくお願い申し上げます。」
一礼して顔を上げた息子の花嫁に、ビルマンも驚嘆する。
なるほど、これでは惚れるのも無理はない、と。
「遠いところをよく参られた。歓迎いたす。」
ことさら堅苦しい対面は国王の威厳であるが、満面の笑みは隠しようがなかった。
婚礼衣装に着替えなおし、隣接する大聖堂で挙式となる。
支度の頃合を見て、クラウドがティアラを迎えに行く。
式の前に妹達との顔合わせもある。
部屋に入った瞬間、クラウドは立ちすくむ。
華やかな衣装に身を包んだティアラは、輝くばかりに映った。
宝石より美しい宝石、とも思えるほどである。
「とても綺麗だ。」
感激のあまり、他の言葉も出てこない。
ティアラが頬を染める様も可愛らしい。
「今日からは、これが貴女の宝冠だ。」
中央にサファイアを配した黄金の宝冠。
サファイアの他にダイヤモンドと真珠が散りばめられている。
クラウドが自分の手でティアラの頭上に載せる。
「さすがに、あれだけのサファイアは探せなかったので、他の宝石も使ってあるが。」
「このような素晴らしい宝冠。もったいないくらいですわ。」
クラウドの載せ方がいささか不器用だったので、手直しして別室へ向かう。
「姫。妹のメリッサとレジーナ。二人共、今日から姉上になられるティアラ・サファイア姫。」
メリッサとレジーナも、これまた口が利けないくらいに目を丸くする。
「ティアラ・サファイアです。これからは仲良くしてくださいませね。」
このように優しく微笑みかける女性は、母以外では初めてであった。