クラウドには菓子の事でティアラと言い争う気はない。
愛妻の作るものさえ、おいしければそれでいいのである。
「ティアラはお菓子しか作らないのか?料理は?」
質問を変えるとティアラは考え込んだ。
「昔は作っていましたけど…。」
何人も料理人がいる宮廷に引き取られて、食事を作る機会もなくなった。
マーガレットも同じだったはず。
二人が菓子以外に作ったのは、弟や妹の離乳食か簡単な軽食くらいである。
「どんなものが得意だった?」
「シチューやチキンパイの家庭料理ですわ。」
「ちょうど良かった。私は鳥料理が好物なんだ。」
ドルフィシェは昼食会や晩餐会の貴族との会食も多い。
とてもティアラが腕を振るうのは無理だ。
「少しくらい回数を減らしても平気だ。あれは食事をした気にならない。」
家族で食卓を囲むのが当たり前だったティアラも同感だ。
大勢で楽しいのは気の置けない人間と一緒にだからだと思う。
幾種類かのお茶菓子で、すっかり味をしめているクラウドは、妻の手料理を想像するだけでわくわくするのであった。
ティアラが初めて迎えるドルフィシェの冬。
かなり冷たい北風が吹く。
寒さのせいか、ティアラは身体のだるさを感じる。
気候になれないだけかと思い、暖かい格好をしても悪寒はおさまらない。
何日もティアラの青い顔が続けば、クラウドは当然心配して宮廷医師を呼ぶ。
診察中、廊下を行ったり来たりして、落ち着かない。
随分と待たされた後、部屋に通された。
先程よりティアラの顔に赤味が差しているのを見て、ほっとする。
「特に病気ではなかったようですわ。」
ティアラが明るい声で言う。
医師の言葉が後に続いた。
「妃殿下は御懐妊でございます。おめでとうございます、殿下。」
クラウドは複数の声に、体の機能が停止してしまったかのように、立ちすくんでしまう。
頭の中で、何事か判断するのにもう一度、言葉を整理する必要があった。
「懐妊と間違いないか!?」
「はい。殿下。」
医師たちは笑みを浮かべた顔で答え、ティアラは頬を染めて頷いた。
「良かった。ティアラ。」
クラウドは人前も憚らず、ソファーに座っていたティアラを抱きしめて、頬に口づけする。
「クラウド様。皆が見ております。」
恥ずかしそうなティアラの小さな声を聞き、やっと手を放す。
我に返ったクラウドも気恥ずかしさを覚えたらしい。
「それで生まれるのはいつだ。」
もっとも気になる質問をして、場を取り繕う。
来年の夏頃、と聞きクラウドは大急ぎで、退室した。
早くビルマンにも報せなくてはと思ったのだろう。
王宮の中を息を切らして、国王の執務室に走りこんできた。
何人かの臣下と接見中だったのだが、
「父上、来年には孫が生まれます。ティアラに子供ができました!。」
クラウドの弾んだ言葉を耳にし、ビルマンは無作法を咎める気もなくなった。
「まことか、クラウド。」
「はい!」
部屋にいた者達も口々に、
「おめでとうございます。」
祝辞を述べる。