第二十二話

 まだ子供が生まれるのは先のこととはいえ、ティアラを案じ公務も極力控えさせている。
 クリスマスと新年の行事だけは、嫁いで初めてなのでとティアラの希望があるので、臨席する事になった。
 国は違っても、賑やかさと華やかさは同じだ。
 クラウドが結婚し、さらにティアラの懐妊と祭りの様相は盛り上った。
 ツリーの飾り付けをしながら、ティアラは故郷のダンラークを思い出す。
 年々増えていく弟妹達と一緒になって準備をした。
 サンタクロースを待ちわびる彼らのために、靴下を何足も編んだ。
 もうメリッサとレジーナは信じる年頃ではないが、今年のプレゼントは何かとしきりに気にしている。
 クラウドはティアラを一日に何度となく見舞い、少しでも気分が悪いものなら、すぐさま寝室に連れて行かれ
「安静にしていないと駄目ではないか。」
と、傍から離れない。
 クラウドのいない間に散歩をして、
「転んだらどうする。」
 ティアラは夫が一緒でなければ庭園にも出られなくなってしまった。
 もちろん初産だからでもあるが、ちゃんとした理由もある。
 クラウド達兄妹の母は、出産の度、身体が弱くなっていった。
 子供達の前では、かなり無理をして元気なように振舞っていたのだと、クラウドが気付いたのは大分後のことだった。
 ビルマンは妻のことを思い出してなのか、クラウドが時に公務の場を離れても何も言わない。
 ティアラは盛んに焚かれた暖炉の部屋で、さらに毛織のショールやひざ掛けを使用するといった念の入れようである。
 暑くて汗ばむ事もあるのだが、そうでもしていないとクラウドが起き上がるのを承知しないのだ。
 彼なりに心配して出産についても色々調べているらしい。
 こればかりは万能の側近であるカイル卿も頼りにできないので、一人で医学書やら医師の話やら熱心に見聞きしている。
 新婚気分の冷めやらぬクラウドは、夫と父親の心境を時を置かずに味わう事になりそうだ。

 雪の降るクリスマスの朝、ティアラはクラウドからプレゼントを手渡された。
 木箱の中に柔らかい布でくるまれていたのは、幼子を胸に抱く聖母像であった。
「ありがとうございます。クラウド様。」
 ティアラの瞳を輝かせた微笑を見られただけで、クラウドには充分だ。
 毎日神への祈りを欠かさず、聖書を広げる愛妻への贈り物は相当考えた。
 妹のようにドレスや宝石の類では、満足してもらえないようなので。
 そこへティアラの懐妊。
(これなら喜んでもらえる。)
 クラウドの予想以上にティアラは喜んだ。
 暖炉の上の一番目立つ場所に飾られた像は、ティアラが毎日手入れをすることになる。
 クラウドはといえば、ティアラから贈られた手編みのひざ掛けをもったいなくて、眺めてばかりいる。
 うっかりお茶でもこぼして汚してしまったらどうしようかと、余計な事を考えているのであった。

 見た目にはわからなくてもティアラは一日一日、自分の中で子供が育っていくのを感じる。
 国の期待が重圧になる事もあるが、母になる喜びと不安は、それを上回り、なんにしても優しい夫がいる。
 少々気ぜわしいくらいだが、クラウドの心遣いは嬉しい。
「お兄様は私達が病気になっても、こうまでしてくださらなかったわ。」
 メリッサとレジーナが言うほどだ。
 冬だというのにどこから手配するのか、ティアラの部屋はクラウドの見舞いの花で溢れている。
 生まれてくる子の部屋も少しずつ準備が整い始める。
 名前についてはビルマンとクラウドが、どちらが付けるかでもめていた。
「初めての孫だから私がつける。」
「私にとっても最初の子です。」
 ティアラのいない場所での話なので、彼女は何も知らないが。
 結局はビルマンとクラウドが二人で考えることになりそうだ。