第二十三話

 
三人の子の母になり、毎日気ぜわしくしているティアラへ、故郷からの手紙が届いた。
 一通はエンリック。もう一通はサミュエル。
 読むと、どちらもほぼ同じ内容が書かれてあった。
「サミュエルが結婚するのですって。」
 ティアラは目を輝かせて、クラウドに話した。
 頭の中では、最初に出会った時の幼い印象が強いが、いつの間にか成長しているのを感じる。
「サミュエルというと、確か…。」
「一番上の弟ですわ。」
 ティアラが部屋の壁にかけられた一枚の絵に視線を移す。
 ティアラを中心にして、姉弟五人の肖像画。
 ダンラークから嫁ぐ時、エンリックが持たせてくれた。
 クラウドも覚えている。
 賢そうな目をした少年。
「もう、そんな年齢になったか。」
「十八になりますわ。大きくなってしまいましたわ。」
 すっかり青年の年頃だ。
 現在の姿を思い浮かべようとするティアラに、クラウドが声をかける。
「式はいつ頃?」
「秋の予定ですって。」
 クラウドは少し考えてから言った。
「里帰りしてみるか?ティアラ。」
 思いがけないクラウドの言葉に、ティアラは驚いた。
 咄嗟に返事もできない。
「久しぶりだ。会いたいだろう。父君の即位二十周年の式典も欠礼してしまったし、改めてお祝いに行ってきなさい。」
 ちょうどティアラが出産と重なってしまって、国を動けなかったのだ。
 皇太子妃のティアラが国外に出るのは、大義名分がいる。
 それをクラウドは見つけ出してくれた。
「ティアラがダンラークへ訪れる時期が弟御の結婚式と重なるだけだ。遠慮せずに行ってきなさい。子供達は心配ないから。」
 連れて行けばエンリックは喜ぶに違いないが、長旅には幼すぎる。
「でも、そのような勝手な事、本当によろしいのですか。」
「諸国訪問は大切な外交だよ。父上には私から話をしよう。」
 早速、次の日にはビルマンの説得に当たってくれた。
 サミュエルの件は伏せたままであったが、遅れたとはいえ父王の即位記念の祝いを兼ねた表敬訪問に、ビルマンも納得したようだ。
 嫁したとはいえ、ビルマンとメリッサは、時折顔を見ることも会話する事もある。
 遠く離れて何年も娘と会えないエンリックのことを思うと、同じ親として考えさせられる点もあった。
「良いかも知れぬな。」
 ビルマンが承諾したので、会議で打ち合わせに入る。
 クラウドはティアラに朗報をもたらす事が出来、安堵した。

 話が本決まりになると、ダンラークへも使者が飛ぶ。
 もちろん、ティアラとクラウドからも個人的に来訪の意を伝える便りが添えられた。
「ティアラが帰ってくるぞ!」
 エンリックは手紙を持って、居間に家族を呼び集めた。
「本当ですの。嬉しい事ですわ。」
 マーガレットが懐かしそうな目をする。
「表向きは私の即位記念の詫びと祝いだが、サミュエルの挙式と同じ頃だ。」
 ティアラは何も書いてないが、クラウドの手紙を読むとそれとなく気付いた。
 わざわざ合わせてくれたのだろう。
「私の婚期に、ですか。」
 サミュエルがためらっているような表情を見せる。