居間でティアラを出迎えたマーガレットは、
「妃殿下、お懐かしく存じます。」
 声を潤ませていた。
「お母様。お達者であられましたか。」 
 ついティアラも涙声になってしまう。
 帰ってきたのだ、という実感が湧き上がる。
 弟も妹も大きくなっている。
 ローレンスは、もう十一だ。
「姉上。お会いできて嬉しいです。」
 はっきり挨拶が出来る。
 あれほど、手がかかる子だったのに。
 カトレアも、
「お会いする日を楽しみにしておりました。」 
 中々、作法通りである。
 アシューは、どうもはにかんでいるのか、何も言ってくれない。
「御機嫌よう。アシュー。」
 ティアラが声をかけても、黙ったままだ。
 人見知りする性格なのだろうか。
 マーガレットがかわりに弁解する。
「この子はすっかり上がってしまったようですわ。」
「仕方ありませんわ。まだ赤ちゃんでしたもの。」
 ティアラが腰をかがめて、アシューと目線を合わせると、突然抱きついて、頬にキスされた。
 アシューは歓迎している事を行動で示す事に決めたらしい。
 ティアラも自分の子供達にするように、一人ずつ、頬にキスする。
「おやおや、私にはそのようなこと、してくれなかったな。」
 エンリックが目の前の光景を見て、呟いた。
 だが部屋の中に一人足りない。
「お父様。サミュエルはどうされましたの。」
「ああ。すぐ来るだろう。会ったら驚くぞ。」
 エンリックは楽しそうである。
 成長したサミュエルが現れるのを、ティアラは心待ちにするのであった。


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