第二十四話

 扉をノックする音。
 入ってきたのは、一人の青年。
「まあ、サミュエル!?本当に!?」
 ティアラが思わず声を上げる。
 すっかり背も高くなって、自分を追い越してしまっている。
 多少、息が切らしているのは、急いでやってきたのだろう。
「お出迎え遅くなって申し訳ありません。久しくお会いしませんでしたが、お変わりないご様子で嬉しく存じます。」
 挙式間もないサミュエルは、連日新居と王宮とレティ家を往復しているのだ。
「すっかり見違えてしまったわ。大人の挨拶は出来るようになったのかしら。」
 ティアラが右手を差し出す。
 サミュエルは一瞬たじろいだが、すぐ手を取って接吻する。
「本当にお懐かしゅうございます。」
「口上は上出来ですね。」
 ティアラが優しく笑いかける。
「此度はおめでとう。サミュエル。」
「ありがとうございます。」
 途端にサミュエルは顔が赤くなる。
 テーブルを囲み、皆で座って話し出すと、打ち解けるのも早かった。
「サミュエルのお相手の方は、エミリ嬢、でしたかしら。」
「はい。明日、最後の打ち合わせで王宮に来ますので、その時にご紹介します。」
 あと数日でサミュエルの妻になる女性。
 ティアラは会うのが楽しみだ。
「叙爵は、どちらの家名?」
「それが知らないのです。」
 サミュエルは困ったような顔をエンリックに向ける。
 かわりにエンリックが答える。
「すぐにわかる。当日を楽しみにしていなさい。」
 本当に隠し通す気らしい。
「皆様はどうしていらっしゃいますの。」
 エレン、ソフィア、ルイーズ、懐かしい貴婦人達。
「今夜の晩餐会に招待している。ティアラに会えるのを心待ちにしているよ。」

 夜、王宮で開かれた晩餐会には、ティアラの知る限りの人々が招かれていた。
 ただ、フォスター卿の連れの貴婦人は記憶に薄い。
 彼も結婚し、相手はパスト司法大臣の娘である。
「まったく、堅物同士で手を組んでやりにくい。」
 エンリックの評である。
 サミュエルがストレイン伯とオルト男爵の手に負えない才を発揮するようになると、王立学院の教授達に研究院へ引きずりこまれそうになった。
 士官学校へ行かせようとすれば、すぐ騎士隊に取られそうになり、学ぶべき場を別に移さざるを得なくなった。
 そして大臣達から、政治の特性について聞くようになる。
 フォスター卿が妻の父であるパスト大臣に頼んでのことだ。
 もう新しく教育係を見つけて欲しい、とパスト大臣が要求するのは、どうやら義理の息子を将来自分の手元に置きたいらしい。
 レスター候夫妻もストレイン伯夫妻も、今では子の親である。
 ウォレス伯夫妻の息子、カイザックはローレンスとアシューの良き遊び友達になっており、もう一人パトリシアという娘がいて、こちらはカトレアと仲良しだ。
 ティアラのいない間に、様々な人間模様が綴られていた。