サミュエルとエンリックに案内されて、ティアラは表札がはまっていない邸宅を見させてもらった。
 庭も邸内もすっかり手入れが行き届いて、住人を待つばかりだ。
「私には贅沢すぎるのですが。」
 まだサミュエルとマーガレットは恐縮している。
 エンリックが随分と指図して、準備を進めたらしい。
 エミリやレティ子爵夫妻も自邸より遥かに風格のある構えに、サミュエルは思ったより大貴族に列せられる気がした。
 前日までサミュエルは叙爵式の行なわれる大広間に出向き、進行表に目を落としながら手順を確認し、ベリング典礼大臣は式の責任者として、最後まで注意を怠らなかった。
 サミュエルの部屋も、すっかり片付いて、こざっぱりとしている。
 いつでも使用できることになっているが、もうあまりないことだろう。
 子供の時分から様相は変わったが、愛着もある。
「そんなに何もかも持って行かなくてもよかろう。」
 エンリックに言われたくらい、新居に色々移した。
 家具はさすがに動かさなかったが、クッションからテーブルクロスにいたるまで、特にティアラとマーガレットが手作りしてくれた品は全部運び込んだ。
 幼い頃、プレゼントされた物も処分できず、荷造りした。
 隅々まで見渡して、感慨に耽っている。
 エミリはサミュエル以上に感傷的になっているだろう。
 明日からは、自分も家庭を持つのだ。
 同時に一人の貴族として責任を負うことになる。
 新しい名と共に。


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