久々に一人で寝室にいなくて済んだということで、
「ずっと寂しかったぞ。ティアラ。」
クラウドは本音が出てしまった。
口付けしたまま、ティアラの細い肩を引き寄せ、ふと、手を緩める。
長く馬車に揺られて、戻ったばかりだ。
「疲れているだろうな。」
無理はさせたくない。
ティアラは返事をする代わりに、クラウドの腕に寄り添った。
結婚して以来、このように会わない日が続いた事はない。
生まれ故郷にいながら、ティアラが重ね合わせるのはドルフィシェの家族の姿。
すでにティアラも子供達の母であり、クラウドの妻であることに他ならなかった。
翌春、再び吉報がダンラークに届く。
「やれやれ、四人目とは仲睦まじくて結構な事だな。」
エンリックとビルマンは同じ感想を持った。
お互い子を持つ親である。
いつ頃身ごもったか、漠然とわかる。
もちろん当人同士は何人も生まれているのだ。
華奢なティアラが今まで安産だったのは、体質なのだろう。
健康で美しいままであるのは、クラウドにとって何より嬉しい。
世の夫達から見たら、とてつもなく幸福である。
大体、兄弟は年が近い方が良いと、クラウドは思っている節がある。
自分が長い間一人っ子で、おまけに年の離れた妹達では、遊び相手として無理があった。
仲の良い下の姉妹を見るに付け、どこか羨ましかったものだ。
マリッシュとは離れてしまうが、間にいれば、それほど年齢差も感じなくなるだろう。
「次も女の子がいい。パールが一人娘では嫁に出せなくなる。」
二歳にしかならない娘の嫁入りを、すでに考えているクラウドに、ティアラは可笑しくなる。
メリッサが降嫁し、レジーナも年頃かと思えば、とてつもない先のことではないと、クラウドは本気のようだ。
クラウドの祈りが通じたのかどうかは不明だが、夏の終わりに生まれたのは、姫であった。
母と同じ金の髪を持つ、愛らしい娘。
名はローズ・コーラル。
「薔薇色の珊瑚ですか。華麗な呼び名ですね。」
ティアラは名付け親のクラウドに言った。
「パールと対になって良いと思うのだが。」
海で採れる白い真珠と紅い珊瑚。
いずれ宝冠に使うことを連想しているに違いない。
ダンラークからの祝いの使者は、ティアラを喜ばせた。
レスター候といま一人は、コーティッド公。
昨年、爵位に就いたサミュエルが遣わされてきた。
クラウドも、その成長振りに目を見張る。
昔の面影が残っているとはいえ、ティアラの話を聞いていなければ、さぞ驚愕しただろう。
レスター候は何度か行き来しているから、旧知の者もいる。
だが、ドルフィシェでサミュエルを知る者はほとんどいないから、誰もが訝しむ。
あのように皇太子妃が親しそうに話しかけるのは、さて何者かと。
クラウドもティアラの弟して見るから、当然のように、宮殿の奥へと通される。
サミュエルが初めて会う四人の子供達は、皆、可愛かった。
「抱いてみますか。サミュエル。」
ティアラにローズを手渡され、ダンラークの家族としては、初めてエンリックの孫に触れたことになる。
「ほう。随分と手慣れておられる。」
クラウドが危なげなく幼児を腕に抱えるサミュエルに感心する。