第二十七話

 ドルフィシェの王子と王女は、ローズも含め、皆健康ですくすくと育っている。
 揃ってどちらかといえばティアラ似の可愛らしい容姿だが、中身はというと、そうもいかない。
 特に第二王子のファルは、一番ティアラに似たクラウドのお気に入りだが、性格は「小さい頃のクラウドそっくり」と、ビルマンとカイル卿が二人して同じ事を言う。
 子供達がいたずらをしたり、言う事を聞かなかったりすると、
「殿下の御子であらせられますから。」
 何故か一言で片付けられてしまうのは、クラウドは承服しかねる。
「小さな子は皆このような感じです。」
 サミュエル一人が肩を持ってくれたが、彼自身は「聞き分けの良い手がかからぬ子」であったとティアラは記憶している。
 ダンラークのローレンスもカトレアも随分わがままな時期もあった。
「下の子がいると、上の子は自然におとなしくなります。」
 ティアラは信じているが、クラウドもそう願いたい。
 さほど年の変わらない叔父叔母と甥姪。
 隣国同士、どちらか一方だけ出来が悪いと評されては、たまったものではない。
 ドルフィシェで貴族諸侯よりマリッシュ達と過ごす事が多かったサミュエルは、すっかり仲良しになり、ダンラークへ戻る際、
「帰っちゃやだ。」
 と服を引っ張られ、振りほどくことに時間を要した。
「いずれお目にかかることもあります。」
 ようやくなだめて、旅立った。
「今度は私とお手合わせ願おう。」
 クラウドのサミュエルとレスター候に対する、別れの挨拶の代わりだ。
「ダンラークの方々によろしくお伝えください。お二人とも気をつけて。」
 ティアラにはなじみの深いサミュエルとレスター候。
 見送った後、尚、感慨に耽るのであった。

 ダンラークへ帰りついた彼らは、エンリックの質問攻めに合う。
 孫はどうだったか、根掘り葉掘り聞かれ、何度も同じ事を繰り返し答える。
 レスター候は職務を口実に逃げ出せるが、サミュエルは連日、エンリックに見つかる度、奥の居間に連れて行かれ、話をさせられたのである。
 ドルフィシェから持ち帰ったローズ・コーラルの人形は、すぐさま部屋に飾られた。
 さすがに四体となると場所もとるので、余っている部屋の一つが「人形部屋」になる。
 毎日、「孫」の顔を見ては、遠く離れた娘をも思い浮かべる。
 ティアラが幸福な暮らしを送っているとはいえ、つくづく距離を感じるエンリックであった。

 同じ悩みをビルマンも抱くようになるのは、しばらくたってのことだ。
 末娘のレジーナに恋人が出来たのである。
 不思議ではないが相手がメリッサの時と違う。
 何とダンラークの騎士だった。
「騎士はドルフィシェにも大勢いるのに、何も他国の人間に惚れなくても。」
 剣の腕と騎士の身分以外持たない者に、王女はやれないと考えるのは当然かもしれない。
 ドルフィシェの者ならともかく、ビルマンもクラウドも難色を示した。
 ただティアラとメリッサはレジーナの味方である。
「初恋が騎士様でしたもの。気持ちはわかりますわ。」
「レジーナの初恋相手!?」
「お父様とあなた以外でレジーナが接していた方はどなただとお思いですの。」
 ティアラの言葉に、クラウドは、はっとした。
「まさか、カイル…!?」
「お気付きになられていなかったのですか。」
 ティアラが少々呆れたような表情を見せる。
「家族同然だったから。」
「カイル卿が結婚された時、随分悲しんでおられましたわ。」
 言われれば、確かに思い当たる点もある。