もし二人が釣り合う年齢であったなら、喜んで花嫁になっただろう。
いや、今でもカイル卿が独身であったなら、レジーナは嫁いだかもしれない。
「たとえ幼くみえても女ですもの。」
身近な男性に親しみから恋心に変化することはあり得るのだ。
「泣かれるのは困るな。」
クラウドは考え込んだ。
反対されてレジーナに駆け落ちでもされたら、と想像し、頭を振って追い払った。
急に話が表面化したのは理由がある。
レジーナの恋人は分別のある騎士で、身分違いであることを気にしていた。
元々ダンラークの使者の警護として随行していたのが、きっかけだ。
いっそ任を降りようかと考えて、レジーナに打ち明けた。
ドルフィシェにさえ、来なければ諦めがつくのではないかと。
しかしレジーナが国を出ると言った。
「お姉様もダンラークからいらっしゃった方ですわ。」
「姫が苦労される事がわかっていながら、それはできません。」
爵位もない自分では反対される事は目に見えている。
ティアラがダンラーク出身である以上、両国の間に亀裂が入るような真似はできない。
国王であるエンリックにも迷惑がかかることだ。
レジーナもドルフィシェに仕官をとは言い出せない。
ダンラークの人間の主君に対する忠誠心が並でない事を知っているからである。
悩んだレジーナがティアラとメリッサに相談を持ちかけたのは自然な成り行きだろう。
どうやってビルマンとクラウドを説得するか。
難問である。
「あの方と一緒になれないのなら、私、誰にも嫁ぎません。修道女になります。」
思いつめたレジーナの言葉にビルマンも慌てた。
時間が経てば忘れるかと思えば、自分の部屋にレジーナは籠もりきりになってしまった。
妹を心配してメリッサも王宮に通ってくる。
ティアラは直接エンリックには手紙を出さず、相手の騎士と年の近いサミュエルにあてて、様子を窺う。
返事によると、大変真面目な青年騎士で同輩の評判も良さそうだ。
最近、配属の変更を願い出ているとの事である。
「国境警備への転属を希望しているらしいですわ。」
せめてレジーナのいるドルフィシェの近くにいたいのだろう。
クラウドは手紙の内容を聞き、レジーナに伝えた。
「本当に良いのか。都へは早々戻ってこられぬぞ。」
「はい。」
ビルマンも再度本心を確かめた。
「お前に家庭の切り回しができるのか。」
「何でもいたしますわ。」
侍女も連れて行けないことを覚悟しているらしい。
「お料理も覚えます。お裁縫も。」
ティアラに習う気でいるに違いない。
自分の身の回りのことさえ、ろくにしたことがない、王宮育ちのレジーナに我慢できるだろうか。
クラウドが二人を試した手段は後日非難されるが、効果的だった。
ティアラにも内密で、騎士をドルフィシェへ呼び出した。
王宮の中庭に姿を見せた時、
「よくも王女であるレジーナを誑かしたな。」
いきなり相手を斬りつけようとした。
騎士は逃げなかったが、その光景を見たレジーナがクラウドの前に飛び出してきた。
「命を捨てる覚悟あれば、この先も平気であろう。」
もし相手がレジーナより自分の保身を考える人間であったなら、許さないつもりであった。
だが逃げもせずドルフィシェにやってきて、剣を向けられても身動きしなかったという事は、首を刎ねられるかもしれないと予想していたのだ。
クラウドはそれを見届けたかった。
(柄に手さえかけないとは。)
レジーナがその場にいたのは意外であったが、必死に騎士を守ろうとした事にも心を動かされた。
妹の恋に反対する余地はなさそうである。