代替わりの隙を突かれることを警戒しなくてはいけないのは、内も外も同じ。
 子供でも病弱でもなく、妻と子もあるクラウドが次代の王であったことは、国民にとっても喜ばしい。
 新しい時代の幕開けを期待する者も多いのであった。

 ティアラも王妃として、クラウドと共に公務に費やす時間も増える。
 今まで以上にドルフィシェという国を支えていかなくてはならない。
 自分達家族のことだけ考えていれば良いというわけにはいかないのである。
 ビルマンの死を悼む気持ちは、目まぐるしい日々の中に溶け込んでいく。
 少なくともクラウドは人前では毅然として、取り乱す事はなかった。
 それは臣下の目にも頼もしく映る。
 山程やらなくてはいけない事があるのは、クラウドにとって余計な考えを持たずに済むのに、都合が良かった。
 覚悟していたとはいえ、やはり国王の重責は荷がかちすぎる。
 だが気負っていなければ、ドルフィシェが路頭に迷ってしまう。
 クラウドの役目は国を混乱から守ることにあるのだから。

 即位の儀式には諸国の人々も集まる。
 中には野心家も紛れているかも知れない。
 この機に乗じて食い物にされては敵わない。
 何よりもドルフィシェが安泰であることを示す絶好の機会でもある。
 一国の王が即位するのだから、来賓も王族が珍しくない。
 ティアラの故国、ダンラークからはエンリックがローレンスを伴ってくるという。
 何十年に一度という式典だけに、大掛かりだ。
 国中も沸き立っている。
 折りしも季節は春になろうとしている。
 誰もが新たな希望に目を向ける。
 長い間王妃が不在だったため、ティアラの存在も大きい。
 人々の期待を受けているのは、クラウド一人ではないのであった。
 いずれ、この日が来るのは予測していたとはいえ、もっと先であって欲しいとも願っていた。
 ティアラは王妃になる喜びより、不安の要素が心の中を占めている。
 だがお互いを必要としている人物が傍らにいることも事実だ。

 王宮の礼拝堂で祈りを捧げた後、大聖堂で即位の宣誓。
 限られた者達しか目に出来ない荘厳な儀式。
 聖職者の手により、王冠と錫杖がクラウドに授けられる。
 この瞬間、正式に国王となる。

 ドルフィシェ国王クラウド、誕生であった。


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