ダンラークからの客人を快く迎えてくれたのは、マリッシュ達四人兄弟である。
互いに初めて会うとはいえ、親近感を持つのに時間はかからなかった。
エンリックなど孫可愛さに、すっかり和んでしまっている。
ローレンスはまるで少し前の自分達を見ている気分だ。
「もう一人の叔父様はお元気ですか。」
マリッシュとファルは一緒に遊んでくれたサミュエルを覚えていて、今回来ていないのを残念に思っているらしい。
「ここでも、子供達に好かれているのか。」
「はい。サミュエルは幼子の扱いが上手ですもの。」
ティアラが微笑んで、エンリックに答える。
「兄上は特別です。」
ローレンスが二人の姪を何とか相手しながら、口を挟む。
散々面倒を見てもらっているから、良くわかっている。
「本当に兄弟、仲がよろしいな。」
クラウドは感心する以外にない。
エンリックの育て方もあるのだろうが、サミュエルが子供達の間に入っているおかげで、あまり兄弟喧嘩もしない。
ローレンスがクラウドに言ったものである。
「どうして自分が皇太子なのか、以前不思議に思っていました。」
つまり小さい頃、サミュエルと父が違う事実に気付かなかったということだ。
ティアラと母が異なるのは、それとなく知っていたが、サミュエルについてはその後になってからである。
いかに自然な家族であったかが窺える話だ。
変にサミュエルが気を遣うことがなければ、もっと遅くまでわからなかっただろう。
ティアラにとっても自分の子供達と弟妹が打ち解けてくれることは、この上なく喜ばしい。
目の前の光景を光景を情愛のこめて見つめるティアラに、エンリックとクラウドもそれぞれの想いを抱くのであった。
何日か滞在する間に、クラウドとエンリックは酒杯を傾ける機会もできた。
おそらく対等に語り合える唯一の相手かもしれない。
「幸せに暮らしているようで、良かった。」
「ご安堵していただけましたか。」
「そうだな。今だから言えるが、もし剣に覚えがあれば決闘を申し込んでいた。」
エンリックは賢王として知られているが、武勇ではなく才智での治世で名を広めた。
国内の騎士はともかく、国王本人に武芸の腕がないことは自覚している。
「カトレアの時はローレンスかサミュエルに相手をさせても良いな。」
冗談めかしてはいるが、本気かもしれない。
「それはいささかお気の毒でしょう。」
クラウドは未来のカトレアの求婚者に同情する。
かつてのエンリックの気迫は、充分に圧倒されるもがあった。
「あの時は剣を突きつけられた心境でした。」
エンリックは思わず苦笑する。
「大事な娘を取られたような気がしたから。そうだな、息子が一人増えたと思えば少しは違うか。」
「ぜひ、お願いいたします。」
クラウドも、つい勢いよく口に出す。
ワイングラスを手に、二人で顔を見合し、部屋に笑い声が響く。
ティアラがドルフィシェで夫と子に囲まれ、国民にも慕われ、私的にも公的にも恵まれている事を目の当たりにして、エンリックとしてもやっと落ち着いた心地であった。
王妃としての立場が待ち受けていても、クラウドと共にあれば何ら支障もないだろう。
今もって仲睦まじいのは見て取れるくらいだ。
自らの手で家庭を築き上げて、満たされた生活を送っているのなら、もう心配する必要もない。
すでにエンリックの手から離れてしまった寂しさはあるが、ティアラが微笑んでいられる場所が、確かにドルフィシェにあると思えば、納得出来る。
結果としてダンラークとドルフィシェが親交を深める架け橋にもなってくれた事は、大いなる副産物だ。
いずれ両国の子供達が成長した暁には、行き来も多くなるかもしれない。
予測に近い願望であった。