ローレンスはすっかり自国と違う雰囲気に驚きの連続で、帰国したらどのように話をしようかと考えている。
 エンリックもドルフィシェの繁栄振りに学ぶところがある。
 異なった文化・風俗を知ることは、一国を担うものとして重要だ。
 ティアラは父と夫が互いを尊重し、大したわだかまりを持たずにいることを何より嬉しく思っている。
 ダンラークの家族の消息をローレンスから詳細に聞くことも出来、懐かしさもひとしおだ。
 まだ弟妹が幼かった時に嫁いでしまったので、自分の事などもしや記憶の彼方ではないかという危惧は、杞憂に終わっている。

 エンリックが帰国の際は、家族揃って、馬車が発つまで見送った。
「また会うこともあるだろうが、その日まで息災にな。」
 エンリックは一人一人の顔を、しっかり脳裏に焼き付ける。
 孫達の顔をすぐ思い浮かべられるように。
「どうぞお達者で、父上。」
「お目にかかれる日を楽しみにしております。お父様。」
 遠いとはいっても隣国だ。
 また両家の人間が訪問する事は可能だろう。
 誰もが別れの挨拶ではなく、再会の約束と信じたのである。


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