第三十話(最終話)
新しく王位に就いたばかりのクラウドと、やはりティアラも様々な行事で忙殺される事になる。
それでも家族で過ごす時間は、毎日少しでも作られる。
晴れた日には庭園で散策やお茶をしたり、居間で皆で集まって話をしたりと、団欒の一時はかけがえのないものなのだ。
ティアラにとっては当然で、クラウドにとっては、正に理想の家庭のありようだった。
エンリックが希望の光明としたティアラは、そのまま、クラウドに受け継がれている。
そしてティアラもまた、自分自身の幸福を実感している。
おそらくこれ以上はないという形で。
幼い頃、途切れてしまったかにみえた肉親への情愛は、再び紡ぎ出されている。
長い歳月をかけて、続いていく事を祈る。
二つの故郷を持ち、それぞれの地で最良の家族を得た。
生まれた時、夢の象徴であったティアラ・サファイア。
今度は彼女の生きる糧を見つけたのである。
その後、ドルフィシェとダンラークの両国間で盛んな国交が開かれ、人々の消息も行き渡る。
ダンラークではエンリックとマーガレットが、共に年月を暮らす。
エンリックは近隣並びなき賢王として君臨する。
マーガレットは「宝冠なき王妃」として、国王のただ一人の妻であった。
サミュエルは、エンリックに重用され、弟ローレンスの治世まで二代に渡り、宰相を務めることになる。
カトレア・ヴァイオレットは「ダンラークの名花」と誉れ高い美姫に成長し、国内外に名を広めた。
アシューは成人後、エンリックの実母の家名を再興し、侯爵家を名乗る。
ドルフィシェ王家は、統率力ある王としてクラウドが政務を執り仕切る。
ティアラ・サファイアは慈悲深い国母として、国民に愛され、慕われる。
四人の子供達もつつがなく成長し、やがてマリッシュとファルもダンラークへ訪れる事になる。
パール・クリスタルとローズ・コーラルは、両親と兄弟の愛情に育まれたことだろう。
ティアラが少女期を過ごした修道院は「王妃」フローリアの墓所として、また慈善施設として、名を残す事になる。
二つの王宮の一角には、後年、趣の良く似た庭園が存在する事が伝えられる。
決して華美ではない、素朴な感じの庭は、王家の人々の憩いの場であった。
ダンラークの一地方の館の庭を模した造りであることは、エンリックとティアラ・サファイア二人の近辺の者だけが知る。
何もないと思いながら、すべてを手に入れた。
穏やかな陽だまりの中に包まれる時間は、再び別の形となって戻ってきたのである。
緩やかに、季節は流れていく。
光が溢れる道へ向かって。
<陽だまりの庭−完−>
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