第四話
宮殿で大舞踏会が行われた翌日。
庭園が開放され、ティアラがバルコニーに出、広く国民の前に姿を現した。
予想以上の人の多さに、ティアラは何度となく、バルコニーに立つことになった。
その次の日は、都の沿道をエンリックと共に、馬車でのパレード。
いずれも、ティアラは宝冠を頭上に戴いている。
誰もがティアラの微笑に魅了され、美しい姫の出現を喜び、祝った。
群集の中には、ティアラの顔見知りの子供達もいた。
馬車に乗っていては、ティアラが人の見分けがつかなくて当然だが、見ている側はそうではない。
「あれ、ティアだよ!?」
「本物のお姫様になっちゃてる。」
目を何度も手でこすりながら、声を上げた。
貴族の父親に引き取られた話は聞いている。
先日、修道院に挨拶に来た時も、すっかり身なりは変わっていたが、中身は前のままで、ほっとしたものなのに。
同伴していた父親の顔は良く覚えていないが、どうやら王様だったらしい。
ぽかんと口をあけ、目をぱちくりさせたまま、馬車が目の前を通り過ぎるのを見送った。
眩しいほどの笑顔だけが、子供達の瞳に焼きついた。
一連の行事が終わると、ティアラはさすがに肩の力が抜けた。
当分、作法の勉強も必要ないだろうと、エンリックが時間を削ってくれた。
もっとも、本人が望めば、その限りではないのだが。
休みなしで出仕していた臣下達にも休暇がいる。が、エンリックの周囲の近臣は、皆、勤勉だった。
フォスター卿などは、
「官舎に一人でいても、何もすることがありませんので。」
と、よく宿直を引き受けてている。
エンリックは自分の言い出した事の後であるから、日々公務に励んでいる。
謁見の回数も増えた。
通常の表敬訪問でなく、ティアラの祝辞を述べに来た人々も無下にはできない。
地方領主から民間の代表者まで、未だ門をくぐる人間が絶えないのだ。
そうなると、ティアラも顔を出すようになる。
もう披露後であるし、何より自分のための遠来の客ではないか。
姿を見せるのが、礼儀として当然だ。
エンリックは止めなかった。
高慢な姫と思われるより、親しみをもたれたほうが良い。
町では活気が漲っていて、冷める気配もない。
人が多く集まれば、経済も動き、景気も上がるというものだ。
都だけでなく、地方にも広まっているようだから、国自体の活性化が続くだろう。
願ってもないことだ。
某日、執務室で最後の一枚の書類に目を通し、署名と印章を押し、処理済の箱の中に入れた直後、エンリックはランドレー夫人の訪問を受けた。
彼女とは表の執務室で会うよりは、奥で会うことが多い。
「珍しいな。急用か。」
「姫様付きの侍女の件、お考えくださいましたでしょうか。」
以前から、ランドレー夫人が申し込んでいた。
女官長として奥向きの職務もあるので、ティアラが生活に慣れてきた頃に、心当たりがあるから専任の者をと、薦めていたのだ。
取り込んでいる最中だったため、延び延びになっていた。
「ランドレー夫人の目利きであれば問題なかろうが、どのような婦人だ?」
念のため、聞いてみる。
「はい。とても心栄えの良い、気立ての優しい方ですわ。一度、会われてからになさいますか。」
エンリックは首を振った。