フォスター卿は年長者で名門の家柄の近臣達に対しては、エンリックの信頼が自分にあっても、常に謙遜した態度だ。
 もっともエンリックが非番だと気付いていたら、その時点で人選を替えたに違いない。
 目立たぬ服装で出かけた後、そうと知ったエンリックに帰ってから咎められることになる。
 サロリィ将軍には近衛の職務を横取りしたと責められ、エンリックにも矛先が向けられた。
「国王陛下は文官ばかりを重用して、武官の事をどう考えておいでなのです。まずは近衛に一言あってしかるべきではございませんか。」
 武官に冷たいわけではないが、サロリィ将軍に痛いところを突かれたエンリックは、ないがしろにしたわけではないと説得し、今後のこともあるので何人か近衛騎士を念頭において欲しいと付け加えた。
 フォスター卿は、数少ないティアラの近くにいられる機会を失いたくなかっただけなのだが、この一件を耳にして、エンリックに不明を詫びた。
「陛下にご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ないことでございます。」
「勝手をしたのは、こちらが先だ。気にするな。」
「でも、気まずいことになりませんでしょうか。」
 騎士隊を辞した時の事を思い出したのだろう。
 すっかり意気消沈したようなフォスター卿を見やって、エンリックが言う。
「サロリィ将軍は余程、手放したくなかったのだろうな。」
 フォスター卿には黙っているが、サロリィ将軍はエンリックに言ったのだ。
「そういう使い方をするのであれば、返していただきたいものです。」
 以前の誼で、錬兵場にも良く顔を出し、その都度、腕が上がっていることを見るにつけ、残念に思うらしい。
 だがエンリックも、今更一介の騎士に戻す気はない。
 フォスター卿に
「将軍と大臣、どちらが良いか。」
 と、問うたのなら、どんな顔をするだろう。
「謹慎は許さぬ。」
 他の者の負担が増える、と手厳しい口調ではあったが、これはエンリックの温情だ。
 それを察した律儀な若者は、深々と一礼して、エンリックの執務室を辞したのであった。


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