第八話
 三人が町へ買い物に出て間もなく、木枯らしが吹くようになった。
 暖炉で使う薪も、次第に多くなる。
「今年は冬が早いな。」
 執務室の窓の外、寒そうな音にエンリックが耳を止める。
 室内にいたタイニード伯が、
「はい。さようでございますね。」
 同意を示す。
 うっすらと、景色が白んで見える。
 エンリックは今まで霞や霧の発生する季節を嫌っていた。
 妻と娘と別れた日を思い出すから、と。
 感慨にふけかかった頃、扉をノックする音がした。
 典礼大臣が、訪れる。
「陛下。今年のクリスマスの件でございます。」
 手にしてきた書類の束をエンリックに差し出す。
「もう、そのような時季か。」
 一年でもっとも賑やかな行事。
 今年はエンリックも共に過ごす家族がいる。
「はい。例年より大きなツリーを用意したいと存じます。奥の方へも何本かお届けいたします。」
 クリスマスは夕刻までの間、王宮の庭園が一般に開放される。
 夜は大広間でパーティーを開く。例年のことだ。
 おや、と思って、書類から目を離す。
「晩餐会がない?」
「御家族で過ごされたいかと思いまして、取り止めにいたします。」
 エンリックが王宮に移って、家族で迎える初めてのクリスマス。
 特別な時間がいるだろう。
「プレゼントを考えないといけないな。」
「お早めにお願い申し上げます。」
 ベリング大臣が念を押す。
 商人も職人も忙しくなる。
 間に合わなくなっては一大事だろう。
 
 エンリックは、一番小さいサミュエルからと思って本人に聞いてみると、意外にいらないという答えが返ってきた。 
 驚いて訊ね直すと続きがあった。
「プレゼントはサンタクロースが届けに来てくれます。」
 何だ、そういうことか、とほっとした。
 子供は純真である。
「それとは別にして、ほしいものは?」
「大きなツリーとケーキ!」
 他にクリスマスの御馳走を並べ始めてしまったので、エンリックは苦笑した。
 サミュエルではなく、マーガレットに相談したほうが良さそうだ。
 ティアラとマーガレットも特に何とは言ってくれそうになかった。
 だが、自分のためには用意してくれるらしい。
 内緒にしておいても楽しみだと、一人で考えることにした。
 なんとも嬉しい悩みではないか。

 十二月に入ると、街も騒がしくなり、王宮も慌しくなる。
 ティアラの披露パーティーに比べれば、はるかにましではあるが。
 ダンラークの都に、初雪が舞い降りた日、王宮のそれぞれの家族の居室へ樅の木が届いた。
「わあ、大きいなあ!」
 サミュエルが喜んだ声を上げる。
 居間用に据え付けられた木は、さぞ運ぶのが大変だっただろうと思われる。 
 上の方の飾りつけは背が高いエンリックでも、手が届かないかもしれない。