三人が町へ買い物に出て間もなく、木枯らしが吹くようになった。
暖炉で使う薪も、次第に多くなる。
「今年は冬が早いな。」
執務室の窓の外、寒そうな音にエンリックが耳を止める。
室内にいたタイニード伯が、
「はい。さようでございますね。」
同意を示す。
うっすらと、景色が白んで見える。
エンリックは今まで霞や霧の発生する季節を嫌っていた。
妻と娘と別れた日を思い出すから、と。
感慨にふけかかった頃、扉をノックする音がした。
典礼大臣が、訪れる。
「陛下。今年のクリスマスの件でございます。」
手にしてきた書類の束をエンリックに差し出す。
「もう、そのような時季か。」
一年でもっとも賑やかな行事。
今年はエンリックも共に過ごす家族がいる。
「はい。例年より大きなツリーを用意したいと存じます。奥の方へも何本かお届けいたします。」
クリスマスは夕刻までの間、王宮の庭園が一般に開放される。
夜は大広間でパーティーを開く。例年のことだ。
おや、と思って、書類から目を離す。
「晩餐会がない?」
「御家族で過ごされたいかと思いまして、取り止めにいたします。」
エンリックが王宮に移って、家族で迎える初めてのクリスマス。
特別な時間がいるだろう。
「プレゼントを考えないといけないな。」
「お早めにお願い申し上げます。」
ベリング大臣が念を押す。
商人も職人も忙しくなる。
間に合わなくなっては一大事だろう。
エンリックは、一番小さいサミュエルからと思って本人に聞いてみると、意外にいらないという答えが返ってきた。
驚いて訊ね直すと続きがあった。
「プレゼントはサンタクロースが届けに来てくれます。」
何だ、そういうことか、とほっとした。
子供は純真である。
「それとは別にして、ほしいものは?」
「大きなツリーとケーキ!」
他にクリスマスの御馳走を並べ始めてしまったので、エンリックは苦笑した。
サミュエルではなく、マーガレットに相談したほうが良さそうだ。
ティアラとマーガレットも特に何とは言ってくれそうになかった。
だが、自分のためには用意してくれるらしい。
内緒にしておいても楽しみだと、一人で考えることにした。
なんとも嬉しい悩みではないか。
十二月に入ると、街も騒がしくなり、王宮も慌しくなる。
ティアラの披露パーティーに比べれば、はるかにましではあるが。
ダンラークの都に、初雪が舞い降りた日、王宮のそれぞれの家族の居室へ樅の木が届いた。
「わあ、大きいなあ!」
サミュエルが喜んだ声を上げる。
居間用に据え付けられた木は、さぞ運ぶのが大変だっただろうと思われる。
上の方の飾りつけは背が高いエンリックでも、手が届かないかもしれない。