サミュエルの部屋の木さえ、彼の身長よりもずっと高かった。
「これ、僕の分!?」
かなりサミュエルは喜んでくれた。
「まあ、一人一本ですのね。」
ティアラも、やはり気に入って、眺めている。
当然エンリックとマーガレットの部屋にも。子供達よりは、やや小さめだが。
「飾りつけも大変ですわ。」
マーガレットがエンリックに微笑みながら言った。
とても、人手が足りないので、ランドレー夫人や侍女や小姓達も手伝うことになる。
毎日、エンリックが部屋に足を運ぶごとに、飾りが増える。
金、銀、赤、青、白、緑、どれも華やかだ。
その内のいくつかは手作りらしい。
秋に森で拾ったまつぼっくりやどんぐりは、サミュエルが色付けしたようだ。
エンリックも手が空いている時は、一緒に手伝う。
自分でツリーの飾り付けをするなど、何年ぶりのことだろうか。
プレゼントはサンタクロースが届けにきてくれると、信じているサミュエルのために、ティアラとマーガレットは片方ずつ、一足の靴下を編んだ。
「二つもあるの?サンタさん、持ってきてくれるかなあ。」
いつも、片足分しか置いていなかった。
「良い子でいなければ、何も入れてはくれませんよ。」
大きすぎる靴下を握り締めるサミュエルに、マーガレットが母親らしくたしなめる。
心配しなくても、サミュエルを「悪い子」と思う者などいないのだが。
宮殿の大広間と庭園の中央にも樅の木が据え付けられる。
「よくもまあ、見つけてきたものだ。」
二つを見比べて、エンリックが感嘆したほどだ。
天井の高い王宮でなければ、屋根に支えている。
梯子を使わなければ、飾りつけもできないので、危ないと判断し、女官は外された。
室内はまだ良いが、外は誰がやるかと、もめそうになった。
だが、エンリックが、
「当日までに風で飛ばされてしまうとも限らないし、第一危険だ。外のツリーは適当でよい。雪化粧されれば充分に見応えがある。」
こう意見した。
降っては止み、日々、庭園の茂みにも雪が積もる。
純白のクリスマスツリーも、味わいがありそうだ。
進み具合を確認するために、エンリックが会場を下見に来た時、
「奥の方は進んでおりますか。陛下。」
ドペンス候が聞いてみる。
「今日あたり、終わるだろう。一番最後に星をつけるのだと、サミュエルが楽しみにしている。」
すっかり父親らしく、エンリックが顔をほころばせている。
(お二人を迎えられて良かったのだ。)
ドペンス候でなくとも、そう思うだろう。
ランドレー夫人の話では、ティアラもかなり明るくなり、毎日を楽しんでいるという。
今まで、エンリックの身辺は、私生活において静かすぎた。
家族と共にあることで、英気が養われるのは望ましい事だったのである。
その夜、夕食の後で居間のツリーの飾りつけも最終段階になった。
冷え込みを感じさせない暖炉の炎で、冬の夜を忘れてしまいそうだ。
「後はこれだけだよ。」
サミュエルが右手に、星の飾りを振りかざす。
大箱に用意された、大小様々な飾りは、空になった。
エンリックが、両腕でサミュエルを抱き上げて、ツリーの側に寄る。
「届きそうか?」
「大丈夫です。」
小さな手を必死で伸ばして、頂点に置く。
「できた。完成!」
エンリックの腕に抱かれたまま、嬉しそうに両手を叩く。
ティアラとマーガレットが、一緒に拍手をする。
「これで、クリスマスを待つだけですわ。」
ティアラが上から下まで装飾さられたクリスマスツリーを眺めて、弾んだ声で言うのであった。