「これは私から。」
 クリスマスツリーに飾ってあった二つの箱をティアラとマーガレットに手渡す。
 いつの間にか枝にかけて置いたようだ。
 色違いのリボンがかけてある。
 お揃いの水晶のロザリオ。
「同じものだが、裏に名前が入っているから。」
 エンリックなりに頭を使って考えた。
 何を贈っても喜んでくれるかもしれない。
 それでも、気に入ってほしいではないか。
「嬉しいですわ。お父様。大切にいたします。」
 ティアラは背伸びして、エンリックの頬にキスする。
「マーガレットは?」
「もちろん、嬉しいに決まっています。ありがとうございます。」
 一瞬、ためらったようだが、反対側のエンリックの頬に軽く口づけする。

 クリスマス当日は、ツリーに飾ってある菓子が取り外されて、食卓に上がる。
 夜には蝋燭が灯される。
 これで見納めだ。
 大広間も庭園も、明日には片付けられる。
 サミュエルがもう一度、外のクリスマスツリーを見たがった。
「いけませんよ。寒いのに。」
 マーガレットがサミュエルを諌めている。
 すっかり、星が夜空に瞬いている。
 朝の雪も、止んでいた。
 門も閉まっているから、警備の者以外、人もいないだろう。
「少しだけだよ。」
 サミュエルがクリスマスプレゼントの品々で完全防備し、結局、家族四人で夜の散策となった。
 雪明りで、クリスマスツリーが白く浮かび上がっているのは、幻想的な景色に映る。
「昼間より、綺麗だね。」
 少し風が吹くと、枝が微かに揺れ、枝葉から、はらりと雪が地面に落ちる。
「風が出てきたから、もう部屋に戻ろう。」
 長い時間、外にいて風邪でも引かれたら大変だ。
 後ろを振り返るサミュエルを、エンリックが抱き上げる。
「また、来年見よう。」
「はい。父上。」

 暖炉の燃えている部屋で、クリスマスツリーを囲んで、楽しく過ごす。
 最愛の家族と。
 これほど心ゆくまで満足したクリスマスは、四人とも心に残るだろう。


 はしゃぎ疲れて朝寝坊したサミュエルを除いて−彼だけの特権だったが−次の日から新年に向けての用意が始まる。


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