第九話

 もう、年が明けるのは、指折り数えるほどとなった。
 日数は縮まるばかりだ。
「お母様、あまり顔色がありませんわ。」
 ティアラが心配そうにマーガレットにたずねる。
「大した事ありませんわ。」
 だが、やはりどこか辛そうに見え、ティアラはマーガレットの額に手を当てる。
「熱があるのではありませんか。すぐに横になられたほうがよろししいですわ。」
 急いで、マーガレットを部屋に連れて行き、
「早くお医者様を呼んでください。」
 ランドレー夫人に頼む。
 ずっと、せわしない日が続いた疲れだろうか。
 そういえば、時々気分がすぐれないような感じであった。
 もっと早く気付くべきだったと、ティアラは自分を責めた。
 当然、エンリックが走りこんでくる。
「マーガレットが倒れた!?」
 執務室にいたエンリックは、すぐさま部屋を飛び出した。
 今朝まで、普段と変わりないように見えたのは無理をしていたのかと、気遣いの足りなさを思った。
 マーガレットの部屋では、ソファーでティアラがサミュエルを抱きしめながら、座っていた。
「お父様…。」
 不安げな声で、ティアラが呼びかける。
「容態は?」
「今、お医者様が診てくださっています。」
 寝室へ通じる扉は、閉まったままだ。
 咄嗟にエンリックは近付いた。
 瞬間、扉が開く。
「病気なのか?」
 つい、声が高くなる。
 診察を終えた宮廷医師は静かに言った。
「陛下、落ち着かれませ。そのような大きな声を出されては、お身体に障ります。」
「妻が病気になって、落ち着けるものか。」
「まあ、ご病気とは違いますが、当分は気を付けられないといけません。」
「一体、何だ。」
 医師の説明に納得いかず、聞き返す。
 嬉しそうな表情で医師は答えた。
「ご懐妊あそばされました。おめでとうございます。」
「そう、病気ではない…。懐妊?子供か!」
 エンリックは、意味を理解した途端、医師を押しのけて、ベッドに駆け寄る。
 ティアラもその言葉を聞いて、安心したように立ち上がって、寝室へ向かう。
 マーガレットは、ベッドの上ではにかんだような微笑を浮かべている。
「すっかり、お騒がせしてまって。」
「何を言う。大変な事ではないか。」
 お互い、初めての子ではないとはいえ、生まれてくる子は、家族全員の血を引く新しい家族だ。
「どうやら、気が付かれていたようですよ。」
 医師の一人がエンリックに告げる。
「えっ?そうなのか。」
「…私も二人目ですもの。でも、間違いでは困りますので、はっきりしてからと思っておりました。」
 マーガレットが身体の変調に気付いたのは、ちょうど寒くなった頃だった。
 気候のせいか、新生活の変化のせいで体調が崩れただけだとしたら、迂闊に口に出せない。
 ティアラとサミュエルが、エンリックの後ろから顔を覗かせる。
「お父様、お母様、良かったですわ。サミュエル、私達に弟か妹ができるのですよ。」
「どっちが可愛いかなあ。」
 サミュエルは首を捻っている。