のどかな昼下がり、のはずだった。先程までは。
遠乗りに出たサミュエル、レスター候、フォスター卿は突然の激しい風雨の中を、駆けていた。
三人だけならまだしもエンリックがいる。
普段散歩ばかりで飽きたのか、遠乗りに出かけるという彼らに付いて来たのだ。
都の郊外まで足を延ばして、雲行きが変わった。
急いで戻ろうとしたのだが、あっという間に天気が崩れ、すでに嵐だ。
森の中、小川が増水し、橋も水の下で見えなくなっている。
レスター候とフォスター卿は顔色がさらに青くなった。
サミュエルなら越えられない川幅ではないが、エンリックではどうだろうか。
渡った時は緩やかな流れだったが今は激流。
水と風の勢いで馬と人間が流されてしまうかもしれない。
サミュエルも同じ事を考え、言った。
「引き返しましょう。確か近くに狩猟小屋があったはずです。」
王宮へ帰るより、一時避難した方が良い。
すでに暗く、豪雨で視界も危うくなってきている。
乗馬に慣れていないエンリックをいつまでもこのままにしておけない。
ぬかるみどころか水流と化している道筋を辿り、ようやく狩猟小屋を見つける。
暖炉も薪もあり、どうにか雨は凌げるだろう。
「陛下がこちらにいることを報せてきます。」
サミュエルは、再び外に出た。
エンリックが止める間もない。
心配そうな顔をするエンリックにフォスター卿が声をかけた。
「無理なら戻ってこられます。今は信じましょう。」
追いかけたいがエンリックを放ってはおけない。
それにサミュエルなら伝えてくれるだろう。
反論しかけてエンリックは黙って頷いた。
幼い頃からサミュエルの乗馬と武術の教育係だったフォスター卿は、誰よりも技量を知っているのだから。
狩猟小屋を後にしたサミュエルは近道をしようと、別の道を走った。
もう少しで森を抜けられると思ったのだが、目の前で川に架かった橋が押し流された。
愕然としたものの、迷ってる時間はない。
躊躇せずに、思い切り手綱を引いた。
飛び越えた瞬間、倒木が一気に下っていくのだった。
王宮では家族も臣下もエンリックの身を案じていた。
ローレンスが奥から執務室の近くまでやってくる。
すでに騎士隊が出動して、町の様子を窺っている。
全身びしょぬれのサミュエルが宮廷に現れたのは、ざわめいた最中だった。
「兄上!父上は!?」
ローレンスが姿を見つけて走り寄ってくる。
「森の狩猟小屋で待機なさってますが、ご無事です。」
通れる道が塞がれたことを立ったまま簡単に説明して、サミュエルは踵を返す。
「では戻りますので、失礼します。」
慌ててストレイン伯がサミュエルの濡れた袖を掴む。
「無茶です。陛下はレスター候とフォスター卿が一緒であれば大丈夫でしょう。」
さらに外は風雨が激しさを増している。
それこそ事故が起きかねない。
サミュエルは黙って首を振って、非礼にならぬ程度にストレイン伯の手を振りほどく。
母にエンリックのことを教えに行こうとしたローレンスは、顔を出すと思っていたサミュエルが後ろにいないので、途中で廊下を戻った。
数人の人間が不安そうに佇んでいる。