お茶の時間が過ぎると、再び居間は作業場となる。
アシューも共に手伝っているのだが、横に菓子入れを置くのを見て、
「お茶の後で、食べなくてもいいんじゃないか。」
ローレンスが言うと、アシューは笑った。
「違います。欠けてしまったものを集めてるんです。」
なるべく型崩れしない物を用意してるが、はずみで最初から砕けてしまったクッキーが
あったりすると、出来れば綺麗な形のまま渡そうと、取り除くようにいているのだ。
もちろん後でおやつになるのだが。
(そうか。欠けたお菓子か。)
エンリックとローレンスの頭に同じ考えが浮かんだことを、サミュエルは悟った。
「執務室に飲食物の持ち込みはいけません。」
二人の場合、あくまで公務の合間、手持ち無沙汰にならないようにしているだけで、一日中
作り続けているわけではない。
公文書という重要書類がお菓子のくずまみれになっては困る。
大体、鳥のえさではなく自分達で食べてしまおうという発想が彼ららしい。
やはりもの足りないらしい…。
前日に、すっかり準備が整ったのを見届けて、サミュエルが帰宅すると、クリスマスツリーの
横のテーブルに、一際大きな靴下型の袋があった。
聞けばエンリック用のお菓子袋だいうではないか。
「いつも陛下は配ってばかりでしょう?たまには御自分も楽しんでいただけたらと思いましたの。」
パトリシアとも話し合い、王宮で用意してはエンリックに気付かれてしまうかも知れないので、
エミリが当日に持っていくことになっているのだ。
「陛下は喜んでくださるだろうけど…。ローレンスとアシューの分は?」
「必要なのですか。」
「中身がお菓子ならね。同じような物、作ってくれないか。」
クリスマスのお菓子は特別だ。
他のものならいざ知らず、エンリックにだけ贈っては、弟達は拗ねるに決まっている。
以前は兄弟で手をつないで、並んだものだ。
年の離れたサミュエルは、付き添いみたいなもので、もう貰えるほど幼くなかったため、
ローレンスとカトレアとアシューは、わざわざ三つを四つに分けてくれた。
結局は家族皆で食べることになるのだが、それでもサミュエルだけないのは、不公平と
感じてくれたらしい。
何しろサミュエルがクリスマスでも枕元に靴下とクッキーを置かないので、サンタクロースを
信じてないのかと訊ねられ、答えに窮したこともある。
遊び心と茶目っ気のあるエンリックの影響もあって、子供達はクリスマスが楽しみで心待ちに
していたのだから。
小雪の舞う翌日、例年と変わらぬ人々の賑わいに、王宮のサンタクロース、エンリックは
窓から様子を眺めて嬉しそうだ。
庭園に据え付けられた巨大ツリーの周りで、はしゃぐ子供達の姿も見える。
「今のところ、迷子はいないようです。」
外の状況確認から戻ったサミュエルが、エンリックに告げると、尚安堵の表情が広がる。
振り返ったエンリックにマーガレットが、金色のリボンが結ばれた大きめの靴下型袋を手渡した。
「はい。パトリシアとエミリからですわ。」
エンリックが、クリスマスプレゼントは、すでに貰ったと思いつつ、テーブルの上で包みを
開いた途端、顔がほころぶ。
クリスマスクーヘンにシュトーレンといった、クリスマス菓子が入っている。
「二人ともありがとう。」
袋を抱えて、エンリックは無邪気に喜んだ。
「父上だけ?」
アシューが聞き返すと、エミリがツリーのそばに置いてあったかごから袋を持ってくる。
「殿下の分もありますわ。」
パトリシアがローレンスに手渡すと彼らも嬉しそうだ。