カイルが案内をしてくれたが、グラハムに合わせてか、かなりゆっくりだった。
 もっと速く走っても追いつけるのだが、せっかくの気遣いなので黙っていた。
 町からは距離があるかもしれないが、その分王宮に近い。
 着いた先は、これなら「邸」と呼んでもおかしくない「家」だった。
 一人歩きなどしているが、どうやらグラハムが思ったよりも偉そうだ。
 玄関を入ると、すぐ一人の女性がやってきた。
「お待ちになっていらっしゃいますよ。」
 それを聞いたカイルは、グラハムに向き直った。
「実は話をうかがいたいのは、もう一人いるのです。」
「何人でも構いませんよ。」
 グラハムは、すっかり暖められた一室に通された。
 客間、というより、主人が個人的な来客と対面するのに使っている部屋だろう。
 そこで座って待っていたのも、騎士だった。
 いや、服装は騎士なのだが、何か違う。
(おや?)
 どこか品格のある、カイルとも別の人種らしい。
 もしかしたら貴族かもしれない。
「お呼び立てしてすまない。旅から旅の話を聞きたいのは、私なんだ。」
 わざわざ、立ち上がって出迎えてくれた。
 年齢はグラハムと変わらないだろう。
 グレーの瞳が、やたらと印象的だ。
 これまた長身で、ごく薄い金髪。
「グラハム・デニソンでございます。よろしくお引き立てください。」
 商人らしく、愛想良く自己紹介をする。
「クラウドだ。よろしく。」
 ドルフィシェの国王と同じ名だが、貴族や騎士が主君にあやかって名前を付けることは良くあるので、あまり気にせず、グラハムは言った。
「王様と同じ御名前ですね。」
「そうなんだ。この国には良くある名でね。」
 言われた方も言った方も世間話にしてしまったが、グラハムの後ろにいたカイルは髪が白くなる思いだ。
 席を勧められ、グラハムが座った時、
「話をするのも商売なのだろう?代価の代わりにこれでもよろしいかな?」
 クラウドがテーブルの上に出したのは、ワインの瓶だった。
「もちろんよろしゅうございます。」
 酒場から連れて来られたからには、もってこいだ。
 頃合を見計らって、先程の女性が酒のつまみになりそうな料理をいくつか運んできた。
「ありがとう。ギュレット夫人。」
 どうやら、この邸の主人、カイルの奥方。
 このクラウドなる人物は、大層な身分なのか。

 グラハムが旅の商人ではなく、宮廷御用達の商人を目指していたなら、知っていただろう。
 カイル・ギュレットが国王クラウド一番の側近だということを。