後編

 テーブルの前で向かい合わせに座って、三人の国王はお説教を受けるはめになった。
「まったく、何を考えておいでです。他の国の方々まで巻き込んで。」
 テイトはまるでジェフドが首謀者のような言い方をした。
「他国で騒ぎをおこさないようにと、申し上げたでしょう。」
 カイルの口ぶりではクラウドが何か事件を引き起こしたかのようだ。
 実際、この三人の組み合わせは目立つので、探すのも楽だったが。
 詩人と剣士と学者が一緒に旅をするなど、滅多にない。
「本当に、どれだけ心配したか…。」
 サミュエルがほっとして今にも泣きそうな顔をする。
 慌ててエンリックが立ち上がった。
「わかった、サミュエル。私が悪かった。」
 ジェフドとクラウドは、
(泣くほど心配されてる。いいなあ。)
と内心思った。
 目の前の自分の側近達は無事を喜ぶより、明らかに怒っている。
「コーティッド公は眠れないほど、案じておられれたんですよ。」
 テイトとカイルの言葉はエンリックだけでなく、ジェフドとカイルに向けられたものだ。
 どうも二人がエンリックを連れ出したと誤解している。
 少しはサミュエルのように主君の身も心配して欲しいものだが、口に出せば、逆に反省しろと雷が落ちるに違いない。
「とにかく即刻お帰りになっていただきます。」
「えー!?」
 まだ旅の途中なのに困るとは言えない。
「せっかく、ティアラと孫に会えると思ったのに…。」
 エンリックの寂しげな呟きは、少なくともサミュエルには効果があった。
「私もお供しますから、そんなにがっかりしないでください。」
(甘い!)
 カイルとテイトは思ったが、他家のお家事情に口は挟めない。
 それにエンリックの本心も混ざってるのは確かだ。
「明日は早いですから、もうお寝みになってください。」
 サミュエルが促したが、エンリックとクラウドとジェフドは顔を見合わせた。
 この人数ではベッドが足りない。
 自分達だけ布団の上で、彼らを床に寝かすのは心苦しい。
「サミュエル、良かったら一緒に…。」
「心配されなくても大丈夫ですから!」
 サミュエルが真っ赤になる。
 いくらなんでも小さな子供ではない。
 木賃宿のベッドなんて、大人が二人寝られるほど広くないのだから。
 テイトもカイルも主君のベッドを横取りする気はなく、元気な顔を見ただけで良く眠れそうだ。
 心配したから怒りもする。
 怪我も病気もしていない様子に安堵したのは当然だった。

 翌朝、エンリック達が目を覚ますと、すでに良い匂いが漂っていた。
 寝ぼけ眼でベッドから起き出ると、
「おはようございます。もうすぐ朝食ができますから、お待ちになってください。」
 サミュエルが笑顔で挨拶してきた。
 どうやら彼が用意しているらしい。
 姿が見えないと思ったカイルとテイトが荷物を持って入ってきた。
 クラウドとジェフドが側近達の腕を引っ張る。
「何で彼が一人で食事作ってるんだ。こき使うなよ。」
 年下でも公爵で、義理とはいえエンリックの息子だ。
「人聞きの悪い事をおっしゃらないでください。いつも一緒に作ってます。それに一番上手ですよ。」
 マーガレットとティアラの手伝いをしてたせいか、手馴れているのだ。
 簡単な料理とはいえ、確かに美味しい。
 食後にリンゴ煮のクレープ包みのデザート付きである。
 エンリックが喜んだのはいうまでもない。