満腹した後で今後の旅程の打ち合わせである。
最初は馬でという話も出たが、サミュエルが青くなって、
「人数も多いですし、馬車にしましょう。」
と提案した。
もちろんエンリックが付いて来られない事を想像したのだ。
しかし馬や馬車といっても、それなりの値段がするものだが、思いの外、大金を所持していた。
旅をしている間に、夜盗や盗賊、馬泥棒の一味を捕まえての謝礼がたまったということである。
偶然、自分達が狙われたのだが、五人や十人、束になって襲われたとしても、所詮敵ではなかった。
「随分、危ない目に遭って…。」
エンリック一人、心配そうな顔をしただけで、クラウドとジェフドは不逞の輩ごとき相手になるどころか、却って憂さ晴らしの標的だろうと、倒された方を気の毒にさえ思った。
「では、出発しましょうか。陛下。」
「その呼び方、駄目!」
サミュエルに向かって、一斉に抗議の声が上がった。
「あ…。」
「父上と呼んでくれなきゃ、やだ。」
「それなら、私は兄上か。」
「私も、私も。」
カイルやテイトなら、駄々をこねるなと一喝するところだが、根がおとなしいサミュエルには出来ない。
とまどった挙句、旅の間だけという約束をしてしまった。
一人っ子のジェフドには、「兄上」というのは新鮮な響きに聞こえる。
「ジェフド様はご兄弟がいないものですから。」
からかい半分にまとわりつかれるようになったサミュエルに、テイトが弁解することになる。
テイトが共にいる以上、ジェフドも吟遊詩人はおあずけとなった。
六人となると宿に部屋がない時もあり、一晩中、馬車を走らせる日もある。
逃亡の可能性があるので、目が離せないのだ。
実際、森や林の中で過ごした方が、食事が豪勢になる。
腕利きが集まれば、森に入って手ぶらで帰ってくることはない。
まるで狩人の一行だ。
エンリックは狩りのかわりに、川や池で魚釣りになる。
クラウドは意外にもてきぱきとしているカイルに驚き、
「料理なんて出来るんだな。」
「一人暮らししましたから。」
結婚前の経験が役に立っている。
ジェフドは家でにんじんの皮をむくテイトの姿を想像し、笑いがこみあげてきた。
サミュエルは材料と道具さえあれば、一通り作れるらしい。
村はずれの空き家を借りた時、かまどがあるからとパンを焼いたくらいだ。
育ちの良さはジェフドやクラウドにひけをとらないが、一番家庭的な雰囲気で育ったためだろう。
持つべきものは料理上手の母と姉である。
やっとのことでドルフィシェに来たが、都の規模にジェフドとテイトは愕然とする。
「これが商業国家というものか。」
陸路を通ったので、港に着いたわけではないが、繁栄の様子は人と物の多さでわかる。
近隣並ぶものなしという話は誇張ではない。
壮麗で豪奢な宮殿を見て、さらに仰天する。
どこもかしこも金ぴかに見えた。
(世の中、不公平だ。)
贅沢がしたいのではないが、何せカルトアは小国の上、あまり裕福ではない。
つい羨ましくもなる。
クラウド達が帰ったと聞いて、ティアラと子供達が駆け寄ってきた。
「ご無事でよかったですわ。本当に心配いたしました。」
思わず夫の顔を見て、微笑もうとして涙ぐんでしまった。
「ただいま。ティアラ。ほら、お客人方もいらっしゃるから。」
久しぶりに愛妻に会えて嬉しいが、抱きしめるのを我慢する。
クラウドの言葉に、はっとしてティアラも顔を上げた。
「まあ、失礼いたしました。」
慌てて後ろの人間達に会釈をするのであった。