大国育ちのクラウドは投資のつもりか、気前の良すぎるところがあり、もしグラハムが
船を一隻と言えば、本当にくれそうな気配である。
ドルフィシェ国王は、代々我儘で強引で、時に無茶を平気でするのだ。
ただ性格や富と権力の強大さの誇示だけでなく、多少の演技も混ざってはいる。
海と陸の交易の要所と共に、商人、兵力、数多の利権と思惑を抱え込むには、
お人好しでは治められらない。
王様稼業も楽しいばかりではないらしいと感じたグラハムは、気楽な旅商人の身分を
ひそかに喜ぶのだった。
数日前まで、雪が降ったり止んだりしていたが、新年は曇りがちながらも、時折、
晴れ間が見える空模様だった。
王宮の開門と同時にどっと押し寄せる人波は王室一家の姿を一目みようとするでなく、
拾い物を期待する者達でもある。
わざと上着のフードや帽子を逆さに持ったりと、一枚でもと願う気持ちは同じだ。
クラウドは集まった人々の前で、簡単に新年の祝いを述べると、
「ドルフィシェの繁栄と皆の息災を願って!」
用意された金貨を、かごごと、さあっとばら撒いた。
陽光に照らされて、きらめきながら舞い降りてくる金貨に、
「ドルフィシェ、万歳!」
「国王、万歳!」
歓声と共に沸き返る。
前の方が動かなければ、ずっと同じ者達が金貨を手にすることになってしまうで、
少しずつ人々も左右に移動させられていく。
クラウドが気持ち良さそうなので、マリッシュとファルも
「父上。僕達もやりたい。」
と言い出した。
金貨のかごは結構重いので、二人の王子は両手ですくい上げて、外に向かって
撒き散らした。
ティアラが懸念するので、怪我人が出た場合に備え救護所も設けられているが、
ちゃっかりした人間は、軽傷でも手当てに向かう。
クラウドの金貨撒きほど、知られてはいないが、実は救護所でも見舞金と称し、
金貨一枚が渡されるのである。
素直に門前で一枚ずつ配ればよいものを、わざと派手に撒くのは興と演出効果の
両方なのだ。
いつも地面に一枚の金貨さえ残っていないのは、王宮関係者が拾っても届け出る
必要がないからである。
ドルフィフェでの催しはダンラークにも伝わっているが、エンリックは感心しながらも、
「金貨では使うのが大変ではないか。釣りがない言われて、街で店にも入れない。」
と首を捻ったらしい。
せっかくなら銅貨か銀貨の方が利用価値があるというのは、自分の体験らしい。
「お菓子でも撒くか。」
本気か冗談かわからないエンリックの発言に、すかさずローレンスは
「多分、粉々になります。」
と言った。
さすがに、この時ばかりは臣下一同口をつぐんだままだ。
ダンラークも充分豊かではあるが、我が国でもと真似されたら、困るのである。
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