実りの秋ともなれば、ダンラーク各地でも収穫祭の季節。
毎年、王宮の門も開放されている。
国王エンリックの「祝祭は大勢で」という主旨だ。
「たまには、こう秋らしい違うことがしたいものだな。」
会議の席上、エンリックが呟いた。
「時季からすると、きつね狩りか何かですか?」
「狩り?」
微妙に曇るエンリックの表情を見て、フォスター卿とタイニード伯は同じ意見を述べた後、「しまった!」、という顔をした。
他の者が心の中でため息をつく中、
「きつねは食べられません!」
まるでエンリックの気持ちを代弁するかの声が聞こえた。
コーティッド公として出席を余儀なくされたサミュエル。
注目が集まり、少々躊躇しながら、
「せっかく収穫祭と重なるのですから、豊作の作物を使うような催しになされたらいかがでしょうか。」
エンリックの希望は、人々も自分も楽しく、だ。
結果、各地の名物を庭園で振舞うということになった。
宮廷行事を面倒くさがるエンリックとしては、珍しく乗り気で。
「どんなものが集まるか、実に楽しみだ。」
サミュエルを含め、豊作だった土地の領主達はさらに大変になる。
料理人や作物、レシピの手配などなど。
レスター候は新酒が間に合うかどうか心配そうだ。
「出すのか!?」
友人のウォレス伯は驚きを隠し切れない。
レスター家特産のワインと言えば、質の高さで有名だ。
一般人どころか貴族にも愛好者が多く、エンリックの王女ティアラ・サファイアの夫クラウドさえ、隣国からわざわざ取り寄せているほどだ。
「献上するしかあるまい。」
強制されたわけでなくても、「各地の名産品」と言われては黙って見過ごすことはできない。
領地の産物が乳製品のウォレス伯は、仕方なしに選りすぐりの牝牛を献上することを考えた。
きっとエンリックの頭の「ダンラーク名産リスト」の中に入っているだろうから。
食物に関わらず、工芸品の展示される。
収益を求めるわけではないから、すべて国費であるが、財務大臣が無言ということは、捻出可能な額なのだ。
どうせなら馬術大会でもと思うのは、貴族の感覚であって庶民には縁遠い。
エンリックの目は、はるか王宮の外にいつも向けられているのである。
準備が進められ、公布がされると同時に都は沸き返った。
「王宮で面白いことをやってくれるぞ!」
贅沢な遊びをするわけでない国王は、時々人々の喜ぶ企画を立ててくれる。
決して楽しみを独り占めしようとはしない。
ダンラークの賑わいと王室への敬慕は一段と高まっていくのだった。